第5話 美月とウサギ(2)

 だらだらと続いた暑さも消え、あっという間に冬休みが来て私はまた鎌倉屋敷に来ていた。満月に会いに行ったのだけど満月はもういなかった。


 寿命だろうか。命があるものはいずれ死ぬのはわかっているけど、またいろいろ話そうと思っていたからショックだった。


 帰り道悲しい気持ちでトボトボと歩いていたら、何かが目の前を横切った。


「ん?あれは、ウサギ?」


 すぐに追おうとしたけど、半透明の後ろ足と小さな丸いシッポが目に入っただけで、すぐに消えてしまった。

 今度は何の前兆なんだろうと思ったがウサギ=満月を思い出して、また悲しい気持ちになった。


 その夜、不思議な夢を見た。


 真っ暗な世界の中で、明るくまん丸な月・・・月なのだろうか?あれは明月院の丸いあの窓?

 そして満月があの澄んだ目でこちらを見ていた。

『見つけましたよ、美月さん。私の力はあなたのために。私の力が及ばないところはきっと・・・』


 自然に目が覚めた。外はもう明るく、時計は8時を過ぎたところだった。

 一瞬自分がどこにいるのかわからなかったが辺りを見回しながら、年末年始を過ごすために来た鎌倉屋敷だと認識した。


 特に用事があるわけでもなく寒さでまだ布団から出たくなかったが、いつまでも布団にくるまっているわけにもいかず、意を決して布団から出て大きく伸びをした。

 ・・・え??背中を向けて一生懸命毛づくろいしている半透明の薄茶色い動物がいる。しばらく見ていたら、長い耳がピンと伸びたのでウサギだと分かった。


 「もしかして、満月?」


 後ろ姿だから確信は無いけど期待を込めて声を掛けてみた。

 ビクッ!っと驚いた風に振り返ったのは紛れもなく満月で、夢の中と同じ声で


 『美月さんと一緒に居たくて』


 と、嬉しそうに跳ねながら寄ってきて、眷属になるまでの事を話してくれた。そして、私が一番気になっている事も聞いてみた。


 「夢の続きを聞きたいのだけど?満月の力の及ばないところは~の続きね」


『それは、後々わかります。今は忘れても構いませんよ!ただ、うさぎお守りだけはしっかり持っていて下さい。あと大変言いにくいのですが・・・鏡見てもらえますか?』


 部屋にある姿見を見て私は絶句した。


『御覧の通り、私が付いている目印に美月さんにウサギの耳が付いています。私を見える人にしか見えないので、美月さんの周りには見える人は居ないと思います。ウサ耳は他の人に見られると消えます。』


 ずっとウサ耳で生活するのは嫌だけど、手を伸ばしても触れる訳でもなく髪を結ぶのにも支障も無いし、ちょっとカワイイかもしれない。見える人が現れるのを気長に待とうと思った。


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