第4話 美月とウサギ (1)

 私には小さい頃から人には見えないものが見える。それはキツネだったり、狛犬みたいなものだったり、はたまた小さな子供みたいだったり。怖い!という経験は無いが、だいたいそういったものが現れるのは何かが起きる前触れだった様な気がする。


 私が物心ついた時には父は居なくて、母の地元の仙台で私を育ててくれた。明月院は父方の祖母の家(通称“鎌倉屋敷”と呼んでいる)が近くにあるので、遊びに行くとよく行っていた。桜や紫陽花の時期も好きだけど、私は紅葉の季節の明月院が好きだ。そして何よりウサギが好きな私は明月院のウサギによく会いに行っていた。


 6年生の夏休み、明月院で満月に会った。

 母は私を育てるために一生懸命でも楽しく働いていて、贅沢は出来ないけれど一般的な暮らしができる位は稼いでいた。低学年までは学童にも行っていたが、高学年になってからは一人での留守番が当たり前になっていた。

 母方の祖父母は他界していたので、中学の入学と母の転勤を機に横浜に引っ越してきた。6年間で出来た友達を置いて、急に6年間の人間関係がそのまま繰り上がる地元の小さな中学校のクラスにポイっと入れられ、いじめられている訳では無いがやはり孤独を感じざるを得なかった。

 ウサギ小屋に行き、ぼーっとウサギを眺めていたら私から目をそらすこと無くじーっと見つめているオレンジのウサギ(薄茶色のウサギはオレンジと言うらしい)が居た。満月との出会いだ。


「満月って名前なんだ。私も美月。同じだね。」 


 同じ名前のせいか満月にはなんだか言える気がして、誰にも言えなかった心の内を話した。相手がうさぎとは言え、溜まっていたものを吐き出し私の気持ちも少し軽くなった気がした。


 満月はコロンとした丸い目でこっちを見ていたが、私が話終わると、昼にも関わらず空に見えている薄い白い月の方に顔を向け、その黒く澄んだ瞳で月を眺めていた。


 「いろいろ聞いてくれてありがとう。また来るね!」


 なんだか満月と話せたのが嬉しくて、でも離れがたくて売店でウサギの形をしたお守りを買った。

 帰り道でウサギ小屋を振り返ったら、ウサギ小屋の裏側の方にタヌキが居た。多分透けてないから本物。

 驚かすのもかわいそうだから、帰ることにした。

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