第3話 満月の耳
梅雨も明け夏休みになった。学校での補講や塾の夏期講習はあるものの、天文部の幽霊部員の俺は部活に出ることも無く、それ以外の時間は図書館に行くのが毎年の事となっている。
暑さでいつもより少し早めに目覚めた金曜日。祝寿吉が急に「鎌倉に行く」と言い出した。夢に満月が出てきて耳をパタパタさせていたらしい。
半信半疑ながらも支度をして鎌倉に行くことにした。
母親に鎌倉に行くことを伝えると、
『たまには羽を伸ばすのも良いと思うわ!あ、お土産お願いね!おつりはあげる!オオカミさんに気を付けてね』と、笑顔で3000円渡された。
すべての始まりは母の買ってきたタヌキお守りだと言うのに、憎めない人だ。“オオカミさんに気を付けて”は、小さい頃から俺も妹も耳にタコが出来るほど言われている言葉だ。俺の事をいったい何歳だと思っているのだろう。まぁ、あれもこれもいちいち気をつけろって言われるよりは、オオカミ=自分に危害が加わるもの、と思えば理解出来無い事も無いかな?と割り切っている。「タヌキさんはくっついてますけど・・・」と、聞こえない位小さな声で返事をしてみた。
地元の駅から電車に乗り、北鎌倉駅で降りる。線路沿いを鎌倉方面に歩いて行き途中右に曲がるとじきに見えてくる明月院。
『次のまんげつの日、満月は居なくなったんです。しばらくして僕も寿命が来たのですが、満月の願いがどうしても気になっていて。神様が気をきかせてくれたのでしょうね、僕まで眷属になっていました。
力になって貰える人なんてどう見つければ良いかわからないので、お守りと一緒に付いていったら優弦さんと出会えたってわけですね!』
前から聞いていたけど、何度聞いてもなんで俺だったのかわからない。でも選ばれたからには祝寿吉や満月、そしてミツキさんの力になりたいと思う。
真夏の鎌倉は緑が青々としていて、これはこれで癒される気がした。明月院にも行ったけどミツキさんが居た訳でもなく、でも何となく宇宙お守りと言うものを買って、鎌倉駅方面に歩くことにした。
小さい頃から母親に連れられて鎌倉は来ていたから庭みたいなもんだし、歩いていると道を聞かれることもある位地元民感を出して歩いている。小町通りは食べ歩きだよな~と思いコロッケを食べたり、団子を食べたりしながら駅まで歩き、今日のところは家に帰る事にした。
小町通りを抜けるころ母親に頼まれた土産を買うのを忘れたことに気づき、ちょっと考えて『月はんぶんこ』というお菓子を買うことにした。味や食感も良いが、パッケージも可愛いと母や茉優にも受けが良い。
お店に入ろうとした時、俺も祝寿吉もびっくりして足を止めてしまった。
頭にうさぎの耳がついている子が買い物をしていたのだ。店員さんも他のお客さんも普通にしているという事は、やはり俺たちにしか見えないと言うことで、祝寿吉は丸い目を大きく見開きそして、嬉しそうに涙をうかべていた。
「“ミツキさん”と“満月”をやっと見つけたみたいだな。」
僕のつぶやきと同時に2人(1人と1羽?)が振り返った。
一瞬これでもかって位に目を見開いていたが間を置いて「話は後で。ちょっと待ってて下さいね!」とミツキさんはニコリと笑って言った。
この時俺が当初の目的であるお土産を買うのを忘れなかったのは、心から驚いてしまった事を隠すために少しでも冷静になろうと思ったからだ。買物の後、僕たちは小町通りの中にある隠れ家的なカフェに入った。
いつの間にかミツキさんのウサ耳は消えていて、最初は初対面だしお互い遠慮があったが話していくうちに僕と同じ高校2年生で最寄りの駅も同じだったり、ミツキさんは漢字だと美月(本人は名前負けしそうと言っていたけど)と書く事が分かり、自然に友達の様な話し方になってきた。
カフェの客はぽつぽつと少ないものの人目もあるので、眷属には話しかけない様にしながら俺と美月さんは、眷属との出会いから通っている学校の事まで沢山話しをした。連絡先を交換し、明日はお互い用事があるので明後日地元の駅前の公園で会う約束をした。
=作者より=
文章抜けているところがありましたので追加しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます