第2話 満月(ミツキ)の願い

 僕、祝寿吉は明月院が好きだった。明月院の悟りの窓は大きなお月様の様に素敵だったし、桜から始まり、菖蒲、紫陽花、秋は紅葉も見られて、よく遊びに行く場所だった。


 僕の探している女の子を初めて見たのは、明月院のウサギ小屋の前だった。

 暑さも落ち着いた午後3時過ぎに現れたその子はウサギに話しかけていて“ミツキ”という名前なのを知った。ウサギもミツキの話に答えているのだが、全く伝わっていなかった。

「いろいろ聞いてくれてありがとう。また来るね!」と言い、ミツキが帰ると僕は初めてウサギと話した。


『こんにちは、僕は祝寿吉っていうんだ。君は?』


『あなたが時々ここに来ているの知ってますよ。初めてお話しますね。私は満月(ミツキ)』


『あれ?今の女の子もミツキだよね?君にたくさん話しかけてたみたいだけど?』


『いろいろ悩んでいる様でしたのでこちらからも話してみたのですが、見ての通り聞こえてなかったみたいで少し残念です。あと、名前が一緒だとお話し頂けて。ほら、入口にプレートが付いているでしょう?』


 あ、今気づいた。顔に出ていたらしく満月がくすくす笑っている。

 しばらく会話を楽しんでいたら、満月が急にかしこまって話し始めた。


『私はミツキさんとどうしても話がしたいと思っていますし、ミツキさんの力になってあげたいと思っています。

 で、月兎族に伝わる話を思い出したのです。

 “まんげつの夜に、一緒に居たいと思う人間の名前を心に願い、月が認めれば眷属神になれる”と。

 やった事は無いので半信半疑ではあるんです。でもやってみようと思っているんです。

 願うことで私の命は一度尽きてしまいます。ただ月がミツキと私を認めなかった場合、祝寿吉さん、どうかミツキさんの力になってあげられる人を探してくれませんか?

 祝寿吉さんになら任せられそうです。というか、任せようと思って予めミツキさんに目印つけておきました。』


 悪戯っぽい笑みを浮かべて、満月は可愛い耳をパタパタさせた。




 学校と塾が終わった俺は祝寿吉をかごに入れ自転車押しながら、そしてハンズフリーのイヤホンマイクを装着して歩いていた。

 祝寿吉と話すにはこれが一番良い。じゃないと、ただの大きな独り言を言う怪しい高校生になってしまう。

 ミツキさん探しを始めて4年経つが未だに目印がある人には会っていない。

 手がかりが少ない上に俺の行動範囲が限られているものあるけれど、情報が少なすぎるんだよな・・・。

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