29.裏主人公とぼんくら新米冒険者1
「なんでこんなFランク依頼にSランクのボスが出てくるのか知らないけど、やっぱり裏主人公たるもの、困ってる人たちがいたら主人公に成り代わって人助けしないとね」
この村で発生する冒険者クエストは、ゲームの中でもそれに似たものが実際に存在する。
しかし、亀裂などないし、本当に駆け出しの頃に上の洞穴に湧いた雑魚どもを掃討するだけの簡単なお仕事だった。
それなのに、蓋を開けてみたら、情報通り亀裂があってそこら中に上位ランクの敵がうじゃうじゃいて、更には予想外な最上級中ボスまで姿を現した。
なんだかゲームの連続クエストとして発生して奥に行けるようになった、追加ダンジョンみたいだな。
俺は抑え込んでいた魔力を膨れ上がらせて、ゆっくり前へ歩いていった。
すぐさま一段低い場所へと到達し、そのまま力強く大地を踏みしめた。
グシャっという気色悪い音が鳴ったが気にしない。
何やらそこら中から共鳴音のような甲高い鳴き声が響いてきて、一瞬にして所狭しと蠢いていたそれらの動きが変わった。
すべてがすべて悪意に満ちたどす黒い瘴気を立ち上らせ、一つの巨大なうねりとなって天高く飛翔し、一つの形を形成していった。
それはさながら巨大な一匹のムカデを彷彿とさせる姿だった。
「先に分体を倒すべきか、それとも本体を倒すべきか」
未だに最奥で揺らめいたままそれ以上の動きを見せない女の幽霊のような魔物と、一つの塊となって空から巨大な鎌首もたげてうねり狂っているデカいムカデを交互に見ていたら、いきなり巨大ムカデが襲いかかってきた。
「そう来るのか」
俺は無表情に引っこ抜いた長剣の柄を両手に握りしめ、袈裟懸けに振り抜いた。
ザンッという、衝撃音と共に、強烈な風圧によって生じた空気を切り裂く斬撃が、巨大な顎門で俺を噛み砕こうとしていたムカデのそれに炸裂して大爆発を起こした。
「
ラスボスが使う凶悪なスキルの一つで、超特大のかまいたちを発生させる範囲系空間切断攻撃だった。
粉微塵になってバラバラとなっていくムカデ頭だったが、そこはそれ。
奴らは一つの生命体ではなく、集合生命体みたいなものだから、身体の一部を破壊してもすぐに別の個体が頭を形成して復活してしまう。
その姿はまさしく強力な再生能力を有する化け物そのもの。
ただし、死滅した個体が復活することはないから確実に身体は小さくなっていく。
「とは言え、こんなものをちまちまと倒していたらキリがないな」
「そうですね。しかも、分体の方はなんの価値もないゴミ蟲同然ですし」
「お? てことは一網打尽にしてもいいってことだよね?」
思わず喜んでしまう俺に、白猫ちゃんは目を細めた。
「……先に言っておきますがご主人様。あの幽鬼の方――特に『本体』は貴重な素材となりますので、ちゃんと残しておいてくださいね?」
「え……? マジか……!」
驚き半分、喜び半分といった体で叫ぶ俺。
俄然やる気になった俺は、再度噛みつこうとしてきたムカデの攻撃を避けつつ、
「これでも喰らうがいい!
どっかの夢想少年みたいな叫び声を上げて、ジークだった頃に極めた剣技スキルの一つでありゲームでも実際に登場する十六連撃を繰り出した。
剣閃が縦横無尽に飛び交い、そのすべてがムカデに炸裂する。
粉微塵に切り刻まれただけでなく、魔力の乗った衝撃波により大爆発したムカデの頭から上半身の五分の一ほどが、一瞬で瓦解した。
ゲームだとこれ喰らったらほぼ即死するが、当然、あのムカデ野郎がこれで死ぬことはない。
おぞましい叫び声が大空洞内に反響した。
俺はムカデと距離を取って長剣を持った右手を天に翳した。
「来たれ! 星の煌めきが如し雷光なる輝きよ!
風属性の初級古代魔法の詠唱が完成した瞬間、爆音轟かせ、俺の剣から強烈な雷撃が巨大ムカデに向かって雷の嵐を降らせた。
かなり魔力も抑えて詠唱した上に、最下級魔法ということもあり、そこまで威力は出ないはずだったのだが、相変わらず俺の古代魔法は絶大だった。
森で放った火属性の初級古代魔法『フレアプロミネンス』のときもそうだったが、危うく大惨事になるところだった。
雷撃喰らったムカデだけでなく、その周辺一帯が帯電したようにバチバチとスパークして、これを生じさせた俺ですら近寄るのが危険な状態となった。
気絶している姉さんたちのことも気になったので、素早く洞窟出入口へと後退する中、すべての蟲が黒焦げとなって黒煙上げながらバラバラと天から降り注いだ。
崩壊していく先程までムカデだったただの灰。
地べたに倒れ込んでいる姉さんたちに意識を集中するが、彼女たちの背後から襲ってくる魔物の気配はない。
「ネフィリム。すまないが、姉さんたちを任せてもいいか?」
「それは構いませんが、ご主人様は如何なさるおつもりで?」
「勿論、あの化け物を倒すまでさ」
俺はそれだけを言い終え、ネフィリムが防護結界魔法を展開させて姉さんたちを護衛し始めた姿を確認してから、再び奥へと歩いていった。
そして、あと十メートルほどで幽鬼と接敵するというところ――丁度大空洞のど真ん中へと歩を進ませたときだった。
「キィエェェー!」
悲しげな人間の女性に近い顔を形作っていた幽鬼が、突如、細長い顔となって精神を蝕みかねないようなおぞましくも甲高い叫声を放っていた。
一瞬頭にチクリとした痛みが走るものの、俺は魔法耐性もかなり強い上に精神攻撃がまったく効かない体質だったから特に何も変化は起きず、無表情のまま歩き続けた。
そして、だらんとぶら下げた右手の長剣を両手に持ち替え、居合い切りのような構えをとって立ち止まった。
「来いよ。お前の正体がなんなのか、俺にはすべてお見通しだ」
細長い叫び顔のまま揺らめいている幽鬼をギロリと睨む一方で、口元に笑みを浮かべたときだった。
それが合図となったかのように、地面が激しく揺れ、亀裂が走った。
ゴゴゴと地の底から地響きが発生し、それが止んだ次の瞬間、轟音と共に、何かが土砂を巻き上げ飛び出してきた。
「……やっぱりお前だったか」
俺は目の前で蠢く巨大な魔物と記憶の中にあるあの高ランク魔物の姿を重ね合わせ、表情を消した。
デス・イーター・ロード・ケイオスという名のネームド。
そいつは巨大な鎌を持った死神が頭部、ケツの部分が幽鬼となっている超特大のムカデのような魔物だった。
「普段は地の底に本体隠して幽鬼だけを外に出し、獲物となる人間をおびき寄せて血肉を喰らい尽くす化け物」
頭である死神や胴体部分であるムカデのような身体をした骨だけで構成されている部分が普段、土の中で何をしているのかは知らないけどな。
「ともあれ、まず間違いなく、二作目世界の最強の一角であることに間違いない。一作目ラスボスの俺の力がどこまで通用するのか試すのにはうってつけの相手だ」
俺はニヤッと笑って瞬間的に長剣を前方へと振り抜いた。
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