22.新規パーティー登録と初依頼




 よくわからないまま追放された者たちプラスαの合計六人で新規パーティーを結成することになってしまった俺たち。


 Aランク女戦士のフィリリス。

 Cランク神官戦士のアイーシャ。

 Cランクタンクのエレミア。

 Bランク精霊使いのライラック。


 それからAランク大魔術師として有名な、ちょっと残念が過ぎるセシリアーナお姉様と、Fランク一作目最強ラスボスの俺。


 種族も職種もバラバラの混成パーティーで冒険者ランクすらバラッバラ。

 一見すると、どう考えてもヘッポコパーティー以外の何物でもなかった。


 しかも、俺以外は全員役立たずのレッテルを貼られた人たちだ。

 そういった脛に傷持つ連中が一堂に会してカウンター前にいたものだから、周囲の冒険者たちの注目を集めまくってしまった。



「おい、見ろよ! 役立たずの能なしどもが慰め合ってるぜ?」

「や~ねぇ~。ほんっと、あり得ないわ。ゴミみたいな連中はさっさと冒険者やめてどっか行けばいいのよ」

「ていうか、ある意味お似合いの連中なんじゃね? 何しろ全員追放された奴らだからな。無能どもの寄せ集めでパーティー組むとか、ホント、笑えるわ!」



 パーティー登録申請のためにカウンター前にいただけなのに、そこら中からバカにしたような笑い声が上がった。


 やはり、先程起こった姉さんの追放の一件といい、少し前にあったフィリリスたちの追放大会といい、このギルドに出入りしている連中の大半に知れ渡ってしまっているようだ。


 となると、その事実を隠し通すことなんかできないから、偏見や男女差別の酷いこの国ではもう、どんなにがんばってもパーティーに入ることはできなかっただろう。


 そうやって考えると、こうして新規にパーティー結成してよかったのかもしれないな。

 まぁ、俺がちょっと遊び――正義の味方しづらくなってしまったんだけどね。



「だけど、お姉ちゃんには世話になっているし、ここいらで恩返ししておいた方がいいかな」



 そう独り言を呟きながら前方を凝視した。

 目の前のカウンター内には、いつだったか俺の冒険者登録の手続きをしてくれた美人エルフの職員さんがいて、セシリー姉さんの相手しながら、パーティー登録手続きを行っていた。


 他のメンバーも一緒になって登録作業を進めていたが、その顔はどこか暗かった。

 やはり先程からひたすら浴びせられ続けている罵詈雑言のせいで、気が滅入っているのだろう。



「やれやれ――ねぇ、ネフィリム」

「またですか……」

「ん? おかしいな。俺、何も言ってないよね?」

「言わなくてもわかりますよ。今悪口を言っている人たちすべてを記録し、情報解析しろとおっしゃるんでしょう?」



 襟巻きになっている白猫ちゃんは目を細めて軽蔑したように見つめてくる。

 俺はニヤリと笑った。



「さっすが、有能な秘書さんは違うよね。ホント、惚れ惚れしちゃうよ」

「まったく……これでは正義の味方なのか悪の枢軸なのかよくわからないですね」



 呆れたようにそんなことを言っていたが、そこはそれ。

 ネフィリムは俺の頭の上に乗っかると、黙ってそのまま一回転するように歩いてから再び肩の上に乗っかってきた。

 どうやらしっかりと仕事してくれたらしい。



「ご主人様」

「ん?」

「あとでおいしいおやつを所望します」

「わかってるよ。スティックタイプのあれを作ってあげるから」

「絶対ですからね?」

「うんうん。約束は守るから安心してよ」



 もう一度ニヤッと笑う俺。

 前世の知識を活かして、猫がまっしぐらになりそうなチュルチュルのおやつを作ってあげることを改めて約束するのだった。



「ルーフェ、そんなところで何をしているの? 早くこっちにいらっしゃい」



 ネフィリムと遊んでいたら、登録作業していたお姉ちゃんが眉間に皺を寄せてこちらにガンつけてきた。

 仕方なくすぐ真後ろまで近寄っていくと、お姉ちゃんの相手をしていたギルド職員のお姉さんがにっこり微笑みかけてくる。



「この間ぶりですね。名前を見てもしかしてと思っていましたが、やはり、セシリーさんの弟さんだったんですね」



 どうやら既に俺のことが紹介済みになっているらしい。



「あ、はい。なんだかそうらしいですね」



 俺はにっこり笑って適当に答えておいた。



「ルーフェ? 登録証を出してちょうだい。パーティー情報を書き込んでもらうから」

「は~い」



 もはやこの段にきて、「僕はパーティーなんか絶対に入らないから!」なんて言えるはずもなく、抵抗するだけ無駄だから素直に渡した。


 ペンダント状になっている登録証を受け取ったギルド職員のお姉さんは、何やらガチャガチャ作業しながら、パーティー制度についてよくわかっていない俺に色々説明してくれた。



「冒険者登録時にも説明しましたが、パーティーにもランクがあって、新規登録時は最低ランクのFから始まります。今まではパーティーランクといったものはなかったので、純粋に冒険者ランクだけが影響していましたが、現在はパーティーランクと冒険者ランクの二つが依頼を請ける上での絶対条件になっています」

「ということはつまり、僕たちパーティーはFランクだし、僕が冒険者ランクFだから、依頼も最低ランクのFしか受けられないってことですね」


「はい。そういうことです。ですので、地道にFランク依頼をこなしてポイントを稼いで昇格試験を受けていってもらうしかありません。ですが、魔物や魔獣から取れた素材は依頼やランクに関係なく買い取っていますので、お金が入り用でしたら素材を売って稼ぐこともできますが、ポイントが貯まらないので、ランクも上がりません」

「なるほど。ちなみに、ランクって上げるメリットって何かあるの?」



 その質問にはお姉ちゃんが答えてくれた。



「冒険者ランクもそうだけれど、パーティーランクが高いと素材の買い取りレートが上がるの。勿論それだけじゃなくて、情報のやりとりなどでも便宜を図ってもらえるし、ギルドから色んな掘り出し物のアイテムを格安で売ってもらえるのよ」

「へぇ、そうなんだ」



 俺の知っている知識と多少似ている部分があるものの、ゲームでは単純に請けられるクエストの難易度が変わって、成功報酬の金やアイテムなどがより高価になっていくだけだったが、やはりそれが現実になると、リアリティのあるやりとりに変わっていくようだ。



「あとはランクが上がれば当然、報酬のいい依頼を受けられるし、知名度が上がれば貴族や豪商などのお抱え冒険者パーティーとしても、優遇されるんだよ」



 そう言って、ライラックがどこか寂しげに笑った。



「詳しいことは内緒にされていたからわからないけど、あたしが前にいたパーティーも、どこかのお金持ちと繋がっていたみたいだしね」



 ライラックに続くようにそう付け加えたフィリリスは、アイーシャやエレミアたちと顔を合わせて、なんだか複雑な表情を浮かべた。


 やはり、みんなそれなりにランクが高かったみたいだし、追放されてしまったことが痛手となって、消えない傷になってしまっているということなんだろうね。



「――とりあえず、また一から出直すしかないから、地道にやっていくしかないでしょうね」



 セシリー姉さんは締めくくるようにそう言うと、職員の女性から全員分の登録証を受け取った。

 戻された登録証には冒険者登録証とは別に、それと似たような小判型の金属製プレートがつけられていた。


 どうやらそれがパーティー登録証らしく、俺のものは冒険者証共々、Fと彫り込まれていた。

 ランク以外にも色々数字とかが書き込まれているが、おそらくその番号などで今後色んなやりとりがなされるのだろう。



「――以上で登録は完了しました。それで、どうしますか? せっかくですから何か受けていきますか? 皆さんはベテランも多いですし、Fランク依頼だったら簡単にクリアできると思いますが」



 にっこり微笑んでくるエルフのお姉さんの提案に、セシリー姉さんがフィリリスたちと顔を見合わせた。



「どうする?」

「ん~。そうね。ここしばらく仕事やれてなかったし、早くランク上げるためにもどんどん依頼こなしていった方がいいとは思うけど」

「私も特に問題ありません」



 フィリリスやアイーシャは共に頷き、エレミアとライラックも、



「私も構わないわ」

「ボクも大丈夫です」



 一様に頷く。



「じゃぁ、何か見繕ってもらいましょうか」



 そう言って、姉さんは職員の女性に向き直るのだが、



「あのぉ~」



 なんとなく俺の存在が忘れられているような気がしたので、思わず突っ込みを入れてしまった。



「ん? どうかしたの、ルーフェ」

「いや、お姉ちゃん、僕の都合聞いてないよね?」

「ん? 聞く必要なんかないじゃない? だって、私とあなたは一心同体なんだもの。私がやるって言ったら、あなたもやるの。私がお休みするって言ったら、あなたも休むの」



 そう言ってニコッと笑うお姉様。

 いやいやいや。

 そういう問題じゃないと思うんだけどね。


 ていうか、これってひょっとしなくても、今後、お姉ちゃんといつも一緒に行動しないといけないってこと?

 それってつまるところ、冒険者パーティーシステムを悪用して俺を監視しようとしているだけなんじゃ!?


 まるっきり自由のなくなった未来しか視えなくて一人呆然としていたら、その間にも勝手に話は進んでいた。



「――でしたら、こちらがお勧めですね。聖都の西に山間の村落があって、そちらから調査依頼が出ています」

「西ってあの村ね。調査っていったい何があったのかしら?」

「詳しいことはよくわかりませんが、ですがFランクの依頼ですので、大した内容ではないと思います」

「わかったわ。だったらそれを受けるわ」

「はい。では手続きしますね」



 どうやらすっかりパーティーのリーダーみたいな存在になってしまったらしい水色のお姉様。

 本来であれば自分の姉がリーダーになってとても誇らしいと思えるのだろうが、いかんせん、リーダーということは事実上、このパーティーの主導権を握ってしまったということで、過保護なあの方がそんな権限を手に入れたらどうなるか。



「ゴクリ」



 生唾飲んで一歩下がったところで、にっこり笑顔のセシリーお姉ちゃんが振り返った。



「――というわけだから、みんな、この依頼でいいかしら?」



 いいも何も、既に依頼受理の書類を受け取ってそこに判子が押されてるし。

 こういうのを問答無用とか、有無を言わせぬって言うんだよ。

 しかし、そんな俺の心の声など当然届くはずがない。



「えぇ、問題ないわ」



 そう応じたフィリリスに同調するように、他のメンバーも皆一様に頷いた。


 ――こうして、なんだか本当によくわからないうちに勝手に冒険者パーティーに組み込まれた挙げ句、さくっと初仕事までこなす羽目に陥ってしまった可哀想な俺だった。


 まぁ、別にいいんだけどね。冒険者稼業には興味あったし。一度は経験してみたいと思っていたから。

 だけど、



「う~~ん。真の力を行使して、悪党を片っ端からぶっ飛ばしていくという俺の計画が……」



 ギルドをあとにしようと出入口に向かいながら、一人ブツクサ言っていると、



「まぁ、日頃の行いですね。諦めた方が賢明かと」



 襟巻きになっていたネフィリムさんが突然、酷いことを言ってきた。



「うるさいよ。ていうか、日頃の行いって言うなら、むしろプラスに働くんじゃない?」

「なぜですか?」

「だってそうでしょ? 俺は正義の味方として悪を裁こうとしていただけだし」

「……ご主人様。ご主人様の場合は正義というより、個人の尺度で勝手に悪と定義して行動しようとしているだけだと思いますよ?」


「ちっちっち。甘いね、ネフィリムさん。この世界での悪とは即ち、ジークくんだった昔の俺さ」

「はい?」

「つまりさ、かつての自分と照らし合わせて似たようなことをしている連中や、それ以上に酷いことしてるバカどもは全員悪ってこと。だから、俺が悪と定義したら、それは全部悪なんだよ」



 ニヤッと笑ってやると、白猫ちゃんが派手に溜息を吐きやがった。



「……そうですね。確かにご主人様は悪の権化です。ご自身のことをよくわかってらっしゃる。でしたらいっそのこと、正義の味方ではなく、大悪党になってみては如何でしょうか?」

「ちょ……いきなり何言ってんの……!?」



 俺は目を細めて白猫ちゃんを睨み付けてやったのだが、彼女はまるで意に介さず、止めとばかりにミャーと鳴いた。



「ですがご主人様。一つご忠告申し上げておきます。先程の発言はまさしく傲慢の極みというもの。ですので、それを心に宿している人は、決して正義という言葉を他者に振りかざしてはいけません。個人のエゴを押し付けているだけかもしれませんので。そのこと、ゆめゆめお忘れなきように」



 そう言ってツ~ンと、そっぽを向いてしまった。



「ちぇっ……なんだかなぁ」



 ちょっと冗談のつもりで言っただけだったのに、妙に真面目なAI猫さんだった――ていうか、AIだからか?

 そんなことを考えながら先にギルドの外へと出ていったお姉ちゃんたちのあとに続こうと、出入口の扉を開けたときだった。



「おい、聞いたか? あの無能ども、寄せ集めでパーティー結成したかと思ったら、いきなり仕事請けたらしいぜ?」

「みたいだな。だけどよ、どうせあんなクソどもじゃ、ガキの使い程度しかできねぇだろうよ」

「ちげぇねぇ。てかおい、もしママのお使い程度の仕事しかしてないのに、失敗したらどうするよ?」

「ギャハハ、そんときゃおめぇ、いきなり死んじまうんじゃね? 最弱魔物に喰い殺されちまってよっ」

「「「ぎゃははは」」」



 よくわからないが、どこからか、明らかに俺たちのことをバカにしたような下卑た笑い声が聞こえてきた。

 振り返らなくったってよくわかる。

 先程、パーティー結成の手続きをしていたときに、俺たち目がけて悪意を放ってきた連中の一部であると。

 つまりは、あのクソどもの中に混ざっていた連中。



「あ……しまった。手が勝手に」



 俺は脳天気な声を上げながら、目にも止まらぬ素早い動きで懐に手を入れると、銅貨数枚を取り出して無造作にそれを四方八方へ放り投げていた。

 そしてそのまま外へと出ると、扉をバタンと閉める。



「「「ギャァァァ~~!」」」



 何やら背後のギルド内から野太い悲鳴がいくつも上がったような気がしたが、俺は特に気にせず、数メートル先を仲良く笑いながら歩いているお姉ちゃんたちのあとを追いかけるのだった。

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