17.残念ここに極まれり
「あ、おい! お前ら……!」
すかさず俺は奴らを止めようと声を上げたが無駄だった。
それまで様子を窺っているだけだったサソリたちがモブ男たちの接近に気がつき、一気に動き出した。
たちまちのうちに激しい戦闘音が発せられる。
甲高い金属音と、動揺したような野太い叫び声が大森林に響き渡った。
「どういたしますか? ご主人様」
「どうするもこうするも。あのネームドはそもそも俺たちの獲物だしな。横取りしたのは奴らでしょ? だったらやることと言ったら一つしかないでしょ」
「まさか、ご主人様……」
足下にいた白猫ちゃんは何かを察したようで、軽蔑したように目を細めた。
俺は特になんの気後れすることもなく、ニヤッと笑う。
「正義の味方たるもの、やっぱり悪は成敗しないとね」
レアモブもろともにぶっ飛ばす。あぁ、なんていい響きだ。
「……ご主人様ならそう言うと思いました」
「ほほ~。ネフィリムさんも大分俺のことがわかるようになってきたようだね」
「……普段の言動を見聞きしていれば誰だって察しはつきます」
なんだか知らないが、白猫ちゃんはそんなことを言って、猫のくせに溜息を吐いた。
俺は敢えてそれに気付かない振りをすると、大地にぶっ刺していた大剣を引っこ抜いて右肩に担いだ。
そしてそのまま態勢を低くして金ぴかに特攻しようとしたのだが、そんなときだった。
「ぅぎゃぁぁっぁぁ~~~~~!」
「ひあゃあああぁぁぁ~~!」
「ふ、ふざけんじゃねぇぞぉ~~!」
突然、サソリたちと戦っていたモブどもが絶叫を放っていた。
「あ……?」
何が起こったのかと思って目を凝らしてみたら、ネームドが何やら紫色の竜巻みたいなものを現出させて、モブどもすべてを切り刻んで宙空高くへ放り投げてしまったのである。
「なんだあれ?」
おそらくなんらかの魔法かスキルなのだろうが、あれがどのような攻撃なのか見当もつかない。
通常の雑魚敵でも大抵は特殊攻撃を持っているから、ボスキャラもどきのネームドがおかしな攻撃を繰り出してきたとしてもなんら不思議ではないが、前世の知識を持っている俺ですら見たことも聞いたこともないスキルだった。
「どうやら三つある尾から毒霧を放ってそれを竜巻状に放ったようですね」
「あ、そうなの?」
ネフィリムさんがすかさず解説してくれる。
いやぁ、実にいい相棒を持ったものだ。
「はい。あれを喰らったら、もしかしたらご主人様でも毒にやられて身動き取れなくなるかも知れません」
「なるほど。てことは、ラスボスである俺ですらそうなら、あいつらは……」
俺は空高く舞い上がって血飛沫撒き散らしてる残念な奴らを見上げた。
「おそらく即死ではないでしょうか?」
なんだろう。あれほど悪を滅す滅ぼすと俺が宣言する度に軽蔑の眼差しを向けてきた白猫ちゃんが、なぜかメチャクチャ冷たい声音でモブどもの最期を宣告してきたんだが?
「まぁいいや。だったら面倒だし、やっぱり当初の予定通り魔法の実験台にするか」
最弱魔法だったらさすがに粉微塵になることはないだろう。
俺は大剣を背中の鞘に戻すと、ネフィリムの反応を待たずに両手を天へと掲げた。
「天地を震わす創世の光よ!
詠唱が完成した瞬間、俺の頭上に巨大な火球が現出し、周囲の大気を溶解させるような猛烈な熱気を放って一気に前方へと飛んでいった。
そして次の刹那、火球とサソリどもが激突し大爆発を起こした。
「やったか!?」
真っ赤に燃えさかる火花がそこら中へと飛び散り、周辺一帯が火の海と化す。
赤いサソリも金ぴかサソリも俺の魔法を避けられず、もろに喰らったせいか、そこら中に足やら首やら尻尾やらがちぎれて吹き飛んだ。
苦痛や熱さにのたうち回り、体液が周囲に巻き散らされ――やがてサソリどもは微動だにしなくなった。
どうやら粉微塵に吹き飛ぶことなくうまい具合に倒せたようだ。
「ふぅ。なんとかなったか」
一人安堵の息を吐く俺だったが、白猫ちゃんは俺の頭の上によじ登ってくるなり猫パンチしてきやがった。
「なんとかなったかではありません。どうするのですか、これ。大惨事ではありませんか」
「ん? 大惨事?」
「そうですよ。よく見てください。周辺一帯を」
俺は白猫ちゃんが何を言っているのか理解できず、サソリどもに近寄りながら周囲の様子を窺い――そこでようやく気がついた。
「あ~……うん。なんか、凄いことになってるね。うん、知ってた」
俺の放った核熱魔法によって、そこら中が炎に包まれていたのである。
その姿はさながら、ちょっとした森林火災であった。
「仕方がないな……」
俺は取り急ぎ水の上位魔法を放って火消しを開始したのだが、どうやらそれがよくなかったらしい。
「――ぅおぉい!! てめぇぇ~~~! 何しやがんだ、くそがぁぁ! 覚えてろよぉぉ!」
なんだか知らないが、どうもサソリどもの毒霧かまいたち攻撃食らっても奇跡的に生き残っていたらしいチンピラどもが、俺の水魔法によってできあがった濁流によって森の奥深くへと押し流されていってしまった。
「あ~……なんか、ホントすまん」
「ご主人様……」
「まぁまぁ、いいじゃないの。サソリの死骸は流されなかったし、火事もすべて鎮火したんだし。それに、悪党も無事成敗できたということで」
「まぁ、それはそうですけどね」
呆れたように溜息を吐くネフィリムさんを俺は敢えて無視することにした。
「それより、あのモブどもの記録、もう消しちゃっていいからね」
「はい?」
「いや、だって。一応結果的に成敗した形になったし、もう覚えておく必要ないでしょ?」
「ご主人様……まぁ、ご主人様がそれでいいとおっしゃるのでしたら私は構いませんが、ですが、敢えて言わせていただきますが、彼ら、先程覚えていろと言っていましたが?」
「ん? そうだっけ? ていうか覚えておく必要なんかないでしょ。相手はモブだし」
俺は一人ニヤニヤしながらそう告げ、金ぴかサソリの死骸へと更に接近した。
「そんなことよりも、素材回収を急ごう。またおかしな連中が来ると面倒くさいしね」
そう宣言した俺に、ネフィリムさんはもう一度盛大な溜息を吐くだけだった。
◇◆◇
【別視点】
「――なんっじゃぁこりゃぁ!」
ジークフリードことオルフェンやネフィリムが素材の回収を終え、しばらくときが経った頃。
その場所を訪れた一組の冒険者のうち、筋骨隆々な男が素っ頓狂な声を張り上げた。
彼の目の前には、普通の冒険者にとっては異常としか思えないほどの珍妙で奇っ怪な光景が広がっていたのである。
本来、隙間もほとんどないぐらい鬱蒼と生い茂っていたはずの聖都南の大森林。
しかし今、目の前にはかつてのその姿とは似ても似つかないような光景が広範囲にわたって展開されていた。
あるはずのない巨大な開けた空間からは昼の青空が覗いていた。
そこら中の木々は焼けただれ、至るところに巨大な水たまりが形成されている。
挙げ句の果てには何かと何かが争ったような跡が残されており、魔物の残骸のようなものがそこかしこに飛び散っていた。
しかも、その真っ黒い甲殻と思われる物質。
「……これは、おそらくサソリ種のものでしょうね」
リーダー格と思しき筋骨隆々の男とは別の、どこか陰険そうな眼鏡男が呟いていた。
「サソリだと? まさか……」
「えぇ。多分、そのまさかでしょうね。俺たちがギルドで依頼を受けて倒す予定だったリバイクアンタレス」
どこか含みを持たせたような言い方をする男に、筋骨隆々の男が舌打ちした。
「ふざけんじゃねぇぞ、クソがっ。これじゃ、依頼達成できねぇじゃねぇかっ」
男は激情に駆られ、近くに立っていた大木を何度も何度も蹴飛ばした。
「どこの誰だか知らねぇが、俺たちに喧嘩売るとかいい度胸してんじゃねぇかっ」
「まぁ、だけど、こうなってくると念のためと思って他にも依頼請けといて正解だったな」
「だな。つーわけで、ヴァーゲン、こんなところにいてもしょうがねぇし、さっさと他んとこ行こうぜ」
「ちっ……行くぞ」
地面に唾を吐いて歩き出すヴァーゲンと呼ばれたリーダー格の男。
他の男たちも彼のあとに続いて歩き出す。
そんな中、最後までその場に残っていた一人の女性が思い切り溜息を吐いた。
「はぁ……あの子、元気にしているかしら?」
どこか心あらずの水色髪の美女は、ブツブツ独り言を呟きながら、歩き始めた。
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