3.追加ダンジョン『ヴィアレンパレス』
「ん? ……あれ?」
虹色の光に包まれながら現れた場所は……森だった。
さっきと周囲の景色がまったく変わっていない。
「どういうことだ? ひょっとしてあの魔方陣、まったく関係なかったってこと? それとも、そもそもこの世界には課金アイテムなんて存在しないってことか?」
だとしたら非常にまずい。
あの追加ダンジョンには、すべての状態異常を回復させてくれる回復の泉とか最上級回復薬であるエリクサーがあるはずなのだ。
あれさえ飲めば、もしかしたら俺にかけられた魔法封じの呪いも解除できるかもしれない。
そう思って期待していたんだけどな。
「それに、あの最強課金アイテムが手に入らないとか、面白くもなんともないぞ?」
今の状態でも十分強いから、どこででもやっていけそうではあるが、それでは俺の今後のビューティフルライフ計画がご破算になってしまう。
最強課金アイテムひっさげ、二作目主人公に成り代わって圧倒的強さを誇る一作目ラスボスであるこの俺が、主人公もどきとなってゲームシナリオ
ある意味ゴリラ対キングゴリラとか、ボスキャラが集合した格ゲーみたいな感じだけど、そんな夢みたいな面白展開狙っていたのに、課金アイテムが手に入らなかったらすべてが水の泡となってしまう。
しかもせっかく異世界にきたというのに、醍醐味である魔法が使えないとか残念すぎる。
「うーむ」
俺は腕組みしながら周囲をきょろきょろして――
「ん? ……あれ?」
それに気がついた。
「この森……さっきの森と違うな?」
同じ場所に出たなら、さっき潜った虹色の
「てことは、移動したってことか?」
ゲーム内ではいきなり追加ダンジョンの入り口に移動していたから、てっきり転移に失敗したのかと思ったけど、この辺はやっぱりゲームとは違うということだろうか。
「まぁいいや。ちょっと歩いてみるか」
俺は小首を傾げながら小一時間ほど森の中を歩き続け、そして――
「お? もしかして、あれか?」
暗黒の森の中に天から光の筋が差し込んでいる場所が視界に入ってきた。
前方の木々の間からも木漏れ日が漏れてくる。
歩けば歩くほど、次第にどんどん大きくなってくる光の彼方。
森の終着地点に辿り着いて光の世界へと飛び込んだ俺の前方には、感動すら覚える大自然の営みが広がっていた。
瑞々しい色合いを放つ広大な草原と、その先で陽光を反射してキラキラ光り輝いている大きな湖。
雲一つない青空には大小様々な鳥たちが飛び交っていた。
そして、そんな景色の更に向こう側に、
「追加課金パックで行けるようになる追加ダンジョン」
『遙かなる悠久の古城ヴィアレンパレス』
遙か古の時代に古代人たちがこぞって天へと浮かべたという浮遊大陸に存在する古城の一つ。
俺は天に向かってそびえ立つ剣山のように尖った城を見ながら、一人、ニヤニヤした。
◇◆◇
古城内部に入った俺は早速ゲーマー……もとい、冒険者魂に火がついてしまい、周囲を物色していた。
ゲームとは随分雰囲気が違っているが、この城の中には確か、魔物が普通にうろちょろしていたはず。
裏ボスや中ボスもいるが、雑魚敵もたくさん存在していたはずだった。
しかし、それっぽい気配はまるでなかった。
というより、城の外観もそうだが内部もかなり綺麗だった。
ゲームでは古城と言うだけあって、外観も中身も結構ガタが来ていて、そこら中ボロボロだったが、この世界のそれは築城されたばかりの城となんら変わらないほどに絢爛豪華さを保っていた。
入ってすぐに待ち構えていた大ホール天井にはいくつもの巨大なシャンデリアが設けられ、既に文明が滅んで久しいはずなのに、なぜかろうそくに火が灯っていた。
壁にかけられた絵画や、正面左右に展開されている上層へと続く大階段も、古びた印象はまるでない。
さながら今もまだ城の主が健在であるかのように、階段に敷かれた赤い絨毯も小綺麗だった。
「変だな。どうしてこんなに綺麗なんだろ。この城はあの追加ダンジョンじゃないのか?」
壁などを触ったり、突き当たり正面にある巨大な扉を調べたりしてみたが、特に異常は見当たらない。
すべて本物だし、よく手入れされている。
「もしかして、時間が経ってもまったく傷まないような、そんな素材でできてるとか?」
あのゲームのバックボーンストーリーによると、今の世界になる遙か前にはいくつもの古代文明が起こっては衰退しを繰り返してきたらしい。
まぁ、ファンタジーあるあるな設定だけど、そんな古代文明の中でも最も古いとされる文明が、かなりの技術力を誇っていたのだとか。
その技術力の一端が今いるこの浮遊大陸だった。
なぜ彼らが大地を空に浮かべたのかはわからないが、そこら中で浮遊大陸ブームが起こって、力ある者たちは皆、自らの領土を空へ浮かべてそこで生活していたのだとか。
まぁ、バカとなんとかは高いところが好きって言うし、そういうことか?
ともかく、文明が滅びるまではそうやってそこら中に浮遊大陸があったけど、そのあとは浮かせる力がなくなった大陸は次から次へと地上に落下した。
そして、地上に落ちた城や街、塔などが今では世界中で確認されている古代遺跡として認知されるようになったのだとか。
なぜ滅んだのかは設定には載っていなかったが、そんな高度文明社会を築いていたような奴らだし、城がボロボロにならない技術を持っていたとしても不思議ではない。
「まぁいいや。とにかく先に進もう」
この城は地上十階、地下五階の合計十五階層になっているはずだ。
ゲームでは地上は今いる一階と三階までしか進めなかった上、上っていっても何もない。
対して、俺が最も欲している課金アイテム群は地下に存在している。
そんなわけで、俺は地階へと続く階段を探し求めて歩き始めたのだが、すぐに手詰まりとなってしまった。
「あれ? おかしいな。なんでないんだ?」
本来、大ホール左右に設置されている大階段の左側奥に、地下に続く階段があったはずなのに、まったくそれっぽいものが見当たらなかった。
仕方なくホール内を隈なく捜索してみたが、まったく見当たらない。
もしかしてホール正面の巨大な扉の奥にあるのかもと思って、扉を開けようとしたがまるっきりびくともしなかった。
「う~む。意味がわからないぞ?」
そもそもポータルから飛ばされてきた場所も違うし、この城の見た目もまるっきり違う。魔物の気配までしない。
「あと残すは上だけど……」
一応行ってみるか。
そう思って大階段を上ってみた。
大階段は上ってすぐのところが通路となっており、両方の階段どちらを上ってもこの壁伝いの通路に辿り着くようになっている。
そして、その左右の端には似たような扉がそれぞれ設置されていた。
俺は左側の扉を潜り、薄暗い通路をひたすら奥へと歩いていく。
しばらく行くと道が右に折れ、ホールにあったもう一つの扉から続く通路と合流することになるのだが、その丁度中間辺りに、左側へと続く通路ができていた。
そこはそれまでのものと異なり、人が五人並んで歩けるほどの広さとなっていた。
明らかに雰囲気が違う通路を更に進むと、その先にホールにあったような巨大な扉が俺を出迎えた。
「おそらくここは謁見の間だな」
俺の知識通りであればそうなる。
果たして――
階下とは違い、軽く押しただけで扉はいともたやすく開かれていった。
だだっ広い空間。
明かり取り用の窓が左右の壁上方に開いていて、そこから昼の陽光が屋内を明るく照らし出していた。
扉から続く赤い絨毯が遙か前方の一段高くなった場所まで続いている。
そこには玉座のようなものが二つあり、そして――
「バカな! なんでこんなところにあいつがいるんだ!? 地下一階の中ボスが!」
黄金の甲冑を身に
この城の主に仕えていた最強の聖騎士カムロス・マクリール。
玉座に座っていた黄金の騎士は、俺の叫びに応じて立ち上がる。
そして、手にした大剣を正眼に構え、一直線に俺の元へと突っ込んできた。
黄金の甲冑の背に巨大な影の翼を広げながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます