許さない
真相の一つ
ボク達は六条家から西南の方角にある、スーパー近くのホテルだった。
田舎町では、唯一のホテルで、旅行客はここに泊まる。
だけど、フロントに立つと、早速異変を感じ取った。
フロントに立ってるホテルマンは、ボーっとした様子で立っている。
話しかけても、「はい」や「そうですか」と空返事。
料金だけ支払い、鍵を受け取ると、カナエさんに続いて、ボク達は移動した。
部屋は、404号室。
カナエさんは部屋の番号と鍵を見比べ、他の部屋の番号もチェックする。だが、404号室で間違いないのか、恐る恐る鍵を差し込み、ため息を吐いた。
部屋にはキングサイズのベッドが置かれていた。
中は結構広くて、和室もある。
ボクは早速、和室に布団を敷いて寝ようとした。
ところが、カナエさんに声を掛けられる。
「ちょっといい? 話の続きをしたいの」
「……はい。分かりました」
布団の上に座ると、カナエさんはリュックの中からアルバムを取り出した。
「サオリ。ココア。おいで」
「なあに? もう、眠いよ」
ココアさんがぶつくさ言って、サオリさんの背中に抱き着く。
コアラみたいにくっ付くと、サオリさんがイラっとした顔で舌打ちをした。
「さっき、道路で話したこと覚えてる?」
「御堂と結婚した、っていう話ですか?」
「そう。私ね。家に帰る前に、一度ハルト君の家に寄ってみたの。申し訳ないんだけど。お母さんの部屋とか、色々見させてもらったのね。ハルト君やサオリ達からも、話を聞いて、ずっと考えてたの」
アルバムをボクの前に置くが、開こうとはしなかった。
「いつ切り出そうか迷ったわ」
「何か見つけたってこと?」
「ええ。それで、きっと、ね。ハルト君は、混乱してイライラしちゃうと思うのよ」
困ったように眉を八の字にして、カナエさんはボクを見てくる。
「ハルト君の記憶は、……当てにならない。酷いこと言って、ごめんね」
ボクは首を横に振った。
ボク自身、色々な事があり過ぎて、未だに混乱している部分があるのは、自覚している。
カナエさんは悪くない。
「ハルト君。一つずつ、整理していこうね」
「……はい」
「まず、最初に。……お母さんの顔、覚えてる?」
「もちろんです」
「そう。じゃあ――」
アルバムを開き、ページを数枚捲る。
そして、家族の集合写真が何枚も、アルバムには挟まっていた。
カナエさんは、ある写真を指して、こう聞いてくる。
「お母さんって、どの人?」
ボクはすぐに指を差した。
「この人です」
「なんですって?」
「えぇー……」
サオリさんとココアさんが引き攣っていた。
ココアさんは赤べこみたいに、首を前にスライドして、ボクと写真を交互に見てくる。
何かマズい事を言ったかな、と不安になった。
「この人が、お母さんで間違いないのね?」
「はい」
「じゃあ、これを見て」
カナエさんがスマホを操作し、今度は画像を見せてきた。
画面に映っているのは、遺影だった。
最初の一人はお父さんだった。
埃を被って、畳の上に置かれた状態で撮られている。
色黒で、しわくちゃの顔をしているのだが、ボクは良い思い出がない。
もう一人は、疲れた顔をした女の人だった。
顔は小じわだらけで、目がどこか虚ろだ。
カナエさんは、女の人を指して聞いてくる。
「この人、……誰?」
糸のように細い目が開き、カナエさんはジッと見つめてくる。
サオリさんまで、眉間に皺を寄せて、ボクを見てきた。
「知らないです。たぶん、おばあちゃん……、とか」
「ハルト君。こっちを見て」
アルバムの方にもう一度目を移す。
さっきの家族写真だ。
場所は、家の庭だ。
縁側には、仏頂面のおばあちゃんらしき女の人と、満面の笑みを浮かべるお母さんが写っていた。
ボクはまだ小さくて、お母さんの膝の上に乗って、無邪気に笑っている。
「もう一度聞くわよ。どっちがお母さん?」
ボクは、即座に指を当てる。
「この人です」
ボクを抱えたお母さん。
眩しい太陽に当たり、髪の毛は赤く染まり、肌の色白さが際立っている。顔の彫りは深く、外国の人のような顔立ちで、美人だった。
ボクのお母さんだ。
「……ハルト君。あなた……」
なんだろう。
何で、みんな怖い顔をするんだよ。
怒られてるかのようで、ボクは委縮してしまった。
「私がわざわざこれを持ってきたのも。御堂さん本人に聞いたのも。全部、確認よ。みんなの話を整理すると、おかしな点がいくつも出てきた。整理したのは、他でもない。呪いの発生源を探るためよ。あれだけ強い力を使う御堂との関連性が知りたかったの。何があって、何をしてきたのか。少しでも情報が欲しかったの」
カナエさんは渋い顔をして、目を伏せた。
「……あなた」
カナエさんの一言で、ボクは頭が真っ白になった。
「認識と記憶にズレがあるわ」
ボクはゆっくりと写真を見つめ直した。
ボクの優しいお母さん。
お母さんを教えただけなのに、どうして重い空気が漂うのだろう。
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