同類

 ほとんど反射だったと思う。

 真後ろには、鉄塊と表現していいのか、石と表していいのか分からないけど。


 胴体ほどの大きさをした石の塊に、溶かした鉄で包み込んだような物体を持つ男が立っていた。

 ココアさんは仰け反るようにして見上げ、驚愕したまま固まっている。

 けれど、手は素早く動き、手に持っていた白い紙を上に放り投げた。


「クソガキがぁ!」


 両手に持った大きな鈍器を振り下ろす。

 考えるまでもなく、ゴツゴツとした見るからに硬い物を大の男が全力で叩きつければ、人間は頭部の形を維持できないだろう。


 ところが、鈍器は何もない所で砕け散った。


消名しょうめい……」


 まるで、見えない壁がココアさんの頭上に展開されている風だ。

 ココアさんが小さな声で呟くと、砕けた鉄石の破片は、宙で砂のように分解されていく。


 男は犬歯を剥き出しにした。

 口周りは風圧で捲れ上がり、信じられない事に男の巨体が宙に浮き始める。


烈破れっぱ

「ぐ、お⁉」


 言葉を唱えると、見えない何かはすぐに従う。

 浮いた体が真後ろに吹き飛ぶと、破壊音を響かせながら、屋根の中にどんどん減り込んでいく。


 不意打ちを仕掛けた男の姿は、見えない所に移動してしまった。


「……ハッ⁉」


 ココアさんが我に返ったのは、その後だ。

 今更、不意打ちの恐怖を思い出したのか。

 急にガタガタと震え始め、サオリさんに駆け寄った。


「お姉ちゃん!」

「……良かったな。を使えて」

「呪術?」


 ボクは首を傾げた。


「ココアは、ハルト君を襲ってるのが魔女だって断言したでしょう。君から見れば、とても不自然だったと思う。でも、まあ、何と言うか」


 いつの間にか隣に立っているカナエさんが、やんわりと教えてくれた。


だから、分かるのよねぇ。ふふ」

「怖がらせないために、言葉濁してたからさ。……ごめんね」


 怯えるココアさんを抱きしめ、サオリさんは代わりに謝ってくる。


「うわあああああああッッ! デカマッチョが襲ってきたああああああッ!」

「あー、うん。吹っ飛ばしたけどね」

「いやあああああああ! か弱いのに、男に襲われたあああああああッ!」

「返り討ちにした後だけどね」


 ココアさんは、全身がびしょ濡れになっている。

 その体をサオリさんに擦り付け、わざとか、って言うくらいに顔を胸元に埋めていた。


「離れて」

「いやあああああああ!」

「こ、ココア。……最悪。あぁ、服濡れてく……」

「お姉ちゃああああああああん!」


 微笑ましそうに眺めた後、カナエさんは家の中に戻ろうとする。


「それじゃあ、お母さん。お金とか貴重品持ってこないとだから。ココア。早く着替えなさい」

「あの、さっきの人は……」

「死んではいないと思うけどぉ。首の骨折れちゃってるから。治るのに時間掛かるんじゃないかしら?」

「はは……」


 それだけ言うと、カナエさんは中に戻っていく。

 残されたボクは惨状を見渡す。


 六条家に喧嘩を売った結果、全員が返り討ちに遭っていた。


「離れてって。わたしも、道具持ってくるから」

「嫌だ! 一人にしないでよ! アタシ、襲われたんだよ⁉」

「……反応に困るね」


 サオリさんまで、しがみつく妹を引きずって家の中に戻っていく。

 場所を移動するとの事なので、少し怖いけど、ボクもスマホとか貴重品を持ってくることにした。


 カナエさんが大丈夫と言うなら、たぶん大丈夫なんだろう。


「お姉ちゃん! ボディソープ変えてる! ずるい!」

「……もおおおおお」

「アタシ、安いのしか買ってもらってないのに!」

「後で同じの買ってあげるから。離れて!」


 ココアさんは、ずっとお姉ちゃんにしがみついていた。

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