サオリの本音

 学校で起きた一件は、たぶん普通に話したって誰も理解してくれない。


 結論から言うと、飛び降りた人は

 矛盾するようで、両足や腰に異常のある生徒は、に及んだ。


 どれだけ異常な事か。


 校内は騒然となり、全学年は異常事態を受けて学級閉鎖をした。

 無事な生徒を集めて授業を始めたが、昼には全員が帰宅するように、理事長から指示が出された。


 この愕然とする事態には、ショックを受けているが、もう一つ信じられない事がある。


 両足に異常のあった生徒の中には、友人の美濃までいた。


 *


 校門から少し脇にずれた場所で、ボクはサオリさんと一緒に迎えの車を待っていた。が、あまりにも遅いため、サオリさんが電話を掛けた。


「……うん。うん。あ、そ。じゃあ、母さんは無事なのね。家は? あー、うん。そうだね。結界の範囲広げた方がいいよ。山火事でも起こされたら、一溜まりもない。はい。……じゃあ、電車で帰るから」


 苦い顔でスマホを操作し、路肩の段差に腰を下ろした。

 ボクも隣に腰を下ろし、サオリさんの明らかに機嫌が悪い横顔を見つめる。


「だから、呪術は嫌いなんだよ。クソ。やってくれる」

「カナエさんに、何かあったんですか?」

突っ込んできた」

「え⁉」


 驚き過ぎて、大きな声が出た。


「だ、大丈夫なんですか?」

「まあね。ウチは六条家の、こういうのは慣れてる。父さんは関与させてないから、生活に支障が出る事はないし。車も、頑丈な高級車だからね。スリップはしたけど、直撃は免れたから。それに、母さんは、体幹たいかんが強いから。グルグル回っても、バランス取ってたおかげで、頭打つことはなかったみたい」


 サオリさんは貧乏揺すりをして、顎をしゃくる。


「分家……。てことは、他にもお祓いできる人いるんですか?」

「いるよ。本家は兵庫県。ちなみに、京都にいる神官とは、本気で仲悪いの」


 話しながら、敷地を囲むフェンスに寄りかかり、ため息を吐く。


「兵庫のおじさんだったら、まあ、呪術師くらいは祓えるだろうけど。嫌味がすごいから、わたしは会いたくない。分家はずっと昔から前線で馬車馬みたいに働くから。実際は、わたしの方がやれるけどね。……はぁ~~~~~っ、どうしよ。気が紛れない」


 ものすごい形相で、アスファルトを睨みつけていた。


「どうしよっかなぁ。うー、絶対に罠だ。あー、どうしよ。めんど、くっさ……」

「何か、すいません」

「ハルト君は謝らなくていいよ。悪いのは、あの呪術師だから」


 そうは言うけど、サオリさんは片目の下を持ち上げ、貧乏揺すりが激しくなっていた。


 話を聞くに、呪術っていうのは相当厄介な相手みたいだ。

 このタイミングで、カナエさんの運転する車に、トラックが突っ込むのも偶然とは思えない。


 挙句に今日の出来事。


 飛び降りた人間はいないのに、大勢の生徒の足が曲がっていたとか。

 後ろを振り返って、フェンス越しに生徒玄関の方を見ると、未だにパトカーが停まっていて、救急車だけではなく、担架に乗せられた人たちが生徒玄関に横たわっている。


 呪術と聞くと、ボクの頭には何となく漫画に出てくるような、カッコいいイメージがあった。けれど、ボクが目の当たりにしている呪術は、おどろおどろしくて、身が縮こまる恐怖がある。


「ハルト君」

「は、はい」

「今から、電車に乗ります」

「はい」

「そこで、確実に君は襲われる」


 サオリさんの目が訴えていた。

 また、怖い目に遭う、と。


「君にできる事は、。あの呪術師が、君にエッチな事をしてきても。怖いことをしても。絶対に動かない事」


 ボクは黙って頷いた。


「いい子だね。血とかいっぱい見ると思うけど。気をしっかりね。君がパニックになれば、必ず足を取られる。そうなったら、わたしが見つけるまで、どんな目に遭うか分からない。かなり時間が掛かる」


 ボクのズボンの裾を捲り上げ、しめ縄を確認した。

 しめ縄は、炭のように黒くなっていた。

 指で触れると、カサカサと音が鳴り、今にも崩れそうだ。


「……ふぅ。あいつの本体探さないと。絶対にどこかへ隠しているはず。そもそも、これだけ斬っても、一向に実体を現さないという事は、肉体を捨てている可能性がある。でも、全部じゃないはず。肉片で十分なの。そいつの血肉が宿っている物があれば、思念体は発生できる」


 ボクは口に出さないけど。

 サオリさんの表情から察するに、かなり追い詰められている状況だという事が窺えた。

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