記憶違い

 ボクには、美濃みのサトシという友達がいる。


『おーい。何か、お前。変な事に巻き込まれてねえ?』

「……うん。よく分からないけど。お祓いのために、今六条って人の家にお邪魔してる」

『マジか。明日学校来れそうなん?』

「行く、……つもりだけど」


 美濃はボクと違って、女子にモテる男子だ。

 一言で表すなら、王子様といった風貌をしていて、分け隔てなく周りに優しい。


『もし、辛いならオレんち来いよ。姉ちゃんも喜ぶし』

「……そうしたいんだけど、なぁ」

『え、幽霊とか、そういうの?』

「魔女だって」

『えー? 魔女ぉ?』


 当たり前の反応だった。

 非現実的な存在を口にした途端、美濃は素っ頓狂な声を上げた。


『ファンタジーみてぇだな。お前、そいつの事見たのか?』

「う、うん」

『どんな感じ?』

「どんな、って。……綺麗な人?」


 ふと、ボクの頭にチクリと光が走る。


「あれ? 美濃の姉さんって、どんな人だっけ?」


 ――


 ボクが超常的な存在を完全に否定できない理由は、ボク自身に起きている出来事が理由だ。

 本当に、どう言葉にしたらいいのか。


 訳が、分からないのだ。

 ずっと。

 何も分からない。


『姉ちゃん、泣くぞ』

「いや、でも、あれ? ごめん。しばらく見てないから。どんな人だったかな、って」

『外見?』

「そうそう」

『茶髪ロングの。ツンケンした、……キャバ嬢? みたいな感じ。ほら。顔の彫り深いから、よく外人と間違えられるだろ。お前も、外国の人みたいだね、って言って。よく怒られてたじゃん』


 気が付けば、意味もなく人差し指を噛んでいた。

 久しぶりに友達と電話をして、話を聞いてもらい、心が軽くなった。

 本当は直で話して、また遊びたいと考えていたが、電話で我慢することにしたのだ。


 なのに、得体の知れないものが体の内側から込み上げてくる。


「……あ、はは。……美濃。ごめん。最低なこと言うけどさ」

『なに?』

「……お姉さん……いたっけ?」

『うわぁ。姉ちゃんにチクってやろ』


 待ってくれよ。

 本当にいたのか?

 ボクは段々と混乱してきた。


 ボクが気が付かない間に――。

 世界がボクを置き去りにして変わったような感覚だった。


『……おーい。マジで大丈夫か?』

「うん。たぶん、疲れてるのかも」

『そっか。まあ、親がいなくなれば、オレだってショックだし。無理もねえわ。明日きたら、帰りにオレの家に寄れよ。遊ぼうぜ』

「……ありがと」


 電話を切って、すぐに頭を抱えた。


「何で、頭がボーっとするんだよ。ずっと続いてる。なに、これ」


 助けてくれ。

 ボクは何かからの解放を求めていた。

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