(短編)平穏な性活

SoftCareer

平穏な生活

「浅井さん、どうしちゃったの? 

 二日連続で遅刻だなんて、君らしくもない」

 昨日に引き続き、今日も一時間以上遅刻して、上司にさんざん叱られた。

 朝、どうしても起きられなかったのだが、仕方ない。

 あの至福の時間は、私に時間を忘れさせる……。


「あーあ、千夜。ほんとどうしたの? 

 目の下にそんなクマ作っちゃってさ。

 まるで彼氏と夜通し愛し合ってたみたいだよ!」

「そんな訳ないじゃない。ちょっとソシャゲにはまっちゃっただけよ」

「だよねー。あんたが、そんなにイケイケでエッチするはずないもんねー」

 同期入社の友人。朝倉よし子は、いつもこんな感じでズケズケとものを言う。

 でも、夕べ私が何をしていたかなんて、よし子にも話せる訳がない。


 やがて、終業のチャイムが鳴り、周りの社員たちも帰り支度をはじめるが、千夜は、まるで競艇選手の様にチャイムと共にダッシュで会社を出た。


「何急いでんだろ? まさか、本当に男だったりして……」

 朝倉よし子はちょっとそう思った。


 ◇◇◇


 私、浅井千夜あさいちやは、大阪・道修町どしょうまちの製薬会社で経理担当の二十七歳の独身OLだ。

 淀屋橋の駅から御堂筋線で千里にあるアパートまで帰る。

 途中、淀川を越えるのだが、私は淀屋橋の駅もこの川もあまり好きではない。


 千里中央駅から小走りで自分のアパートに向かい、急いで鍵を開ける。


 よかった! まだちゃんと居る!!


 千夜の部屋の中には、どう見ても中学生位の上下ジャージ姿の男の子がいた。

 そして彼は無言のまま、まるで母親を待ちわびた子供の様に千夜に走り寄って来る。


「トヤマ。ただいま……」


 そう言って千夜はトヤマと呼んだその少年の口に唇を合わせた。

 そしてそのまま、千夜とトヤマは晩御飯もすっぽかして、男女の行為に没入していった。


 ◇◇◇


 成人女性の千夜が、中学生男子と淫行する事自体、犯罪だと思われるが、これは一体いかなる事か。千夜はどこからトヤマを引き入れたのか……。


 二日前の夜。千夜はいつも通り、風呂に入ってから全裸でベッドに入った。

 冷房があまり効かなくてちょっと暑い事もあるが、全裸ベッドはちょっとセレブっぽくていいかなとも思っている。

 そして千夜の脇には、お気に入りの抱き枕があった。


 それは、今大人気の少年サッカー漫画「サッカーの王様サカキン」の主人公で、中学生の越中エッチュウトヤマの抱き枕だった。

 千夜は、いわゆる腐女子というほど男の子同志の絡みには興味がなかったが、こうした十代前半の男の子が好きで、以前はこの性癖を人にも言えず悩んでいたのだが、これをショタと言って、結構同類がいる事をネットで知ってからは安心したのか、いろいろグッズとかを取り揃えて部屋に置いたりしていた。


 そしてその夜も、大好きな越中トヤマの抱き枕を撫でまわしながら、自分のあそこを刺激していたら、突然、その抱き枕が光りだした。


「えっ? 何? なによこれ!?」

 千夜が驚いてみている前で、抱き枕はモゾモゾっと変形をはじめ、やがて本当の丸裸の男の子になった。


「えー。何よこれ。はは……トヤマが三次元だとこんな感じなんだ……。

 ねえあなた、越中トヤマなの? どうしてこんな事が? これは夢?」

 千夜が続けざまに質問するが、トヤマは何も答えず、ただ千夜の顔をしげしげと眺めながら、優しく微笑みかけてくる。

 そして千夜がそっとトヤマの胸に触れると、トヤマは千夜の手を握り、やはり優しく微笑んでくれる。

 千夜が調子に乗ってあちこち撫でまわしてみるが、嫌な顔一つしない。


「はは、やっぱ抱き枕だからかな? でもちょっと……どうするこれ? 

 これやっぱり夢だよね……そしたらこんなシチュ、楽しまなきゃ損だよね!?」


 そして、千夜はそのままトヤマを押し倒し、自分の処女を捧げた。


 ◇◇◇


 翌朝。


「ふわー……なんかすごい夢みちゃったわ。でも……ああ、なんか幸せ!

 ってあー、もうこんな時間じゃない!! 

 これじゃ遅刻確定だわ! 急いで服着ないと」


 そう言って、千夜が脇を見たとき、ベッドの下にトヤマが全裸で転がっているのが目に入った。


「えっ!? ちょっと……昨夜の事は、夢じゃないの?」

 慌ててベッドの方を振り返ると、そこにははっきりと自分の破瓜の血が残っている。


 かなり動揺はしたものの、千夜はトヤマがリアルに実在していた事がうれしくて仕方なかった。裸のままじゃ可哀そうなので、自分のスウェットのジャージを着せ、朝ごはんも作ってあげた。

 そして、自分が仕事に行っている間は家から出ない様、念を押して出勤したが、まあ、一時間以上の遅刻となった。


 その日は、仕事もロクに手につかなかったが、会社帰りに、男の子用の下着やTシャツ、半ズボンなどを、ドキドキしながら買った。

「トヤマは、トランクス派だろうか? それともブリーフ派? 

 私としたら……ブリーフかな!」

 そんな妄想をしながら慌ててアパートに帰ると、トヤマはちゃんと待っていてくれた。


「これでお話が出来たら、最高なんだけどな……。

 まあ、抱き枕にそこまで期待しちゃいけないか……」

 そんな事を考えつつ、買ってきた下着や服をトヤマに着せたり脱がせたりしながら、千夜とトヤマは、男女の行為を続けた。


 ◇◇◇


 こうした経緯で、千夜は今日も会社に大きく遅刻した。

 しかしそんな事、千夜は全く気にならないし、あんまりうるさく言われるなら、会社を辞めてもいい位に思っている。


 二人でさんざんエッチして、シャワーを浴びて、またベッドに裸で横たわる。

 そして部屋の天井を見上げながら千夜は思う。

 (この幸せは、いつまで続くんだろ……)


 すると、予期せぬ事が起こった。


「浅井 千夜……?」


 なんと、トヤマがしゃべったのだ!!


 驚く千夜に、トヤマが話しかける。

「驚かせて済まぬ。言葉を思い出すのに思いのほか時間がかかってな。

 だが、お主に会えてよかった。

 ここ数日、世話になったが、これからもよろしく頼む」


「えっ? えっ? トヤマ、しゃべれるの? でも何。その言い方。

 まるで時代劇の人みたいだよ。でも……。

 これからもって言う事は、ずっと私の側にいてくれるの?」


「うむ……それでわしの名前なのだが、わしはそのトヤマとかではない。

 わしの名前は、豊臣秀頼だ。

 家康に大阪城を囲まれ万策尽き、自分で腹を切ったのだが、その時強く願ったのだ。こんど生まれてくる時は、母上と穏やかに暮らせる様に……とな。

 そうしたら死後、転生神と言う者が現れ、わしを転生させてくれると言ったのだ。それで千夜。おぬしが抱いていた布団を憑代よりしろにして、こうして生き返った訳なのだが……

 どうやら、転生神とやらは何か勘違いをした様だな。

 浅井あざい茶々ちゃちゃ姫ならわしの母上なのだが、浅井 千夜では……他人ではないか。

 しかし……お主との相性は良さそうじゃ。

 これからは、夫婦として暮らして行ければと思うのだが……どうだ?」


「えっ……そんな……どうだと言われても……」


 豊臣秀頼に、夫婦として暮らして行きたいと言われ、千夜は足元がガラガラと崩れる様な感覚に襲われた。


(そんな……秀頼ですって? ああ、そんな……)


 ◇◇◇


 浅井 千夜が、前世の事を思い出したのは、十歳の頃だった。

 

 もちろん両親の元、普通の小学生として暮らしており、それですぐに生活を変えたりは出来ない。

 その事は、自分だけの秘密として、今まで誰にも話た事はなかった。


 そう、自分は前世では、浅井長政あざいながまさとお市の方の間に生まれた長女。

 茶々だったのだ。

 成長して、豊臣秀吉に嫁ぎ、淀殿よどぎみと呼ばれたが、今の時代、その名前は息子を死に追いやった希代の悪女の様に言われている。

 淀屋橋も淀川もその事が思い出されて嫌いだった。


 そんな……秀頼……確かにわたくしも、次の世では母子で平穏に暮らしたいと望みましたが……。


 戸惑う千夜に秀頼が近寄り、肩を抱き寄せて言った。


「さあ千夜。今宵も愛し合おうではないか。

 わしとお主の身体の相性は最高じゃ!」


(終)


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