第4話ー2
「うちと黒沢さんは、お互い愛し合ってたけど結婚でけへん深い事情があったの」
「この男がわけありってことか?」
「ちゃうのよ!」
「じゃあ、なんで?」
「新士は、日本国憲法第24条1項って何か知っとるか?」
「『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない』だっけか?」
「せや」
「それとこれと、何の関係があるんや?」
俺は、オカンが言わんとしていることが何なのかさっぱりわからず、イライラした。
「ウチ、ほんまは……男なのよ……」
想定外過ぎるオカンのカミングアウトに、俺は声を失った。
口をつけていないオカンのアイスコーヒーの氷が溶けて透明のグラスに結露のように張り付き、やがてそれは雫となってポタポタと涙のように滴り落ちた。
「ウチな、物心ついた時から “男” である自分を受け入れることができんかってんで。ハタチになった時、性転換手術して、大阪のニューハーフの店で働いとったん。ほんで、黒沢さんと出逢って一緒になったんやで。せやけど、日本の法律では同性同士の結婚は認められていひん。うちも黒沢さんもボウズが欲しうて、児童福祉施設で出逢うた新士を養子として育てることにしてんで……」
「じゃあ、なんで、この男は、オカンとわいを捨てたんや?」
「ウチ、ニューハーフの店でめっちゃ人気あってな。それを面白く思えへんキャストに、ウチが男だってこと言いふらされてしまって……新士が好奇の目にさらされるのが不憫でな……ウチは、黒沢さんと別れて、姉が暮らしとる東京へと引っ越してきたんやで」
あまりに衝撃的過ぎて感覚が麻痺してしまったのか、かえって冷静になることができた俺は、黒沢に尋ねた。
「アンタ、さっきからずっと黙っとるけど、アンタはこの先どうしたいの? 俺ももう社会人やし、ふたりで暮らしたいなら、俺、家出て行くけど?」
「新士くん、俺は、君のお母さんのことも、君のことも愛している。できることなら……3人で家族として一緒に暮らしたいと思っている……勝手を言って申し訳ない……」
黒沢は、俺に対し、深く頭を下げた。
「アンタ、オカンが今までどれだけ苦労してきたのか知っとるんか? 今頃になってひょっこり出てきて、父親ヅラするのは調子良過ぎへんか?」
「ちゃうのよ、新士! 黒沢さんは、毎月ウチらに仕送りをしてくれとるのよ。今まで普通の女の人と結婚するチャンスも何度もあったのに、ウチと新士のために、全部断ってくれてんで。新士が成人したら、ほんまのこと話して、3人で暮らしたいって話しとったん。こんなカタチで真実を伝えるカタチになってしまって、ほんま、ごめんな……」
そう言って、オカンは涙を流した。
「少し、考える時間が欲しい……」
そう言って、俺は、オカンの誕生日プレゼントをテーブルの上に置いて、店を後にした。
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