秘密共有病

黒幕横丁

秘密だよ?

「ねぇ」

 彼の視線に目が離せなくなる。

「どうしたの?」

 動揺を悟れないように、私は必死の作り笑顔で答える。

「僕の秘密教えてあげようか?」

「えー、出会ったばかりなのに教えてくれるの?」

 そう。彼とは偶然出会ってただただ話があって、こうして一緒にいるだけなのだ。それなのに、彼の秘密が気になってしまうのは何故だろうか。

「うん、君だけに特別に」

 “特別”という言葉にどうしても惹かれてしまう。ここから先はきっと聞いてはいけない気がするんだけど。

「教えて……欲しい……」

 口が勝手に教えてと乞う。

「いいよ。実はね……」


「秘密共有病?」

「そう、新たな幻想奇病」

 開院準備中。先生から新たな事例を聞いた。

 幻想奇病とは、フォークロアやクリーピーパスタ起因の病気。この世界の現代における流行り病の一種で普通の病院では治すことが出来ない。専門の機関での治療が必要なのだが、私が働いている病院もその機関のひとつである。

「突然誰かから、秘密を教えてあげると持ちかけられる、それを拒否することは出来ず、聞いてしまうと……」

「聞いてしまうと?」

「発症して、自分のしまっておきたいトラウマがフラッシュバックするらしい」

「ヒェッ」

 先生の言葉に私の血の気が引いた。そんな恐ろしい病気爆誕しないで欲しい。

「最近増えている事例だから、君も注意してね。発生源があちこちにうろついているらしいし」

「はーい。気を付けまーす」

「捕まえられたらいいけど、噂や秘密は逃げ足が早いからねぇー」

 先生はそういって笑っていた


 すっかりあと片付けをしていたら遅くなってしまった。早く帰らないとまた明日も仕事なのに。

 私が速足で家路を急いでいると、街頭に人影が見える。こんな夜遅くに一人佇んでいるなんて絶対に怪しい。

 その人影を避けるように帰ろうとすると、

「ねぇ」

 声を掛けられる。無視して進もうとするのに、どうしてか足が止まって人影の方を振り向いてしまった。

「なん……でしょう?」

 まるで人影に糸で操られているかのように話しかける。もしかして……、これって今流行りの幻想奇病の発生源なんじゃ?

 逃げたい気持ちはすごくあるのにも関わらず、体は人影に縛り付けられているかのように動くことが出来ない。

「僕の秘密……知りたい?」

 ほら、来た。もし聞いてしまったら私も発症してしまう。聞きたくない、けど、

「聞きたい……」

 口が聞きたいって言ってしまう。もー、八方ふさがりじゃないか。

「じゃあ、教えてあげるね」

 人影はにこりと笑う。

「……それは私もぜひ聞きたいねぇ」

 後ろから聞き覚えのある声がした瞬間ふっと緊張の糸が途切れたかのように私は腰が抜けた。後ろをふりかえると、そこには先生が立っていた。

「先生!」

「心配だったからね後ろをつけてきて正解だったよ。さて、観念してもらおうか?」

 先生が漁で使うような網を人影に投げつける、人影はその網にかかったが、


 どろり。


 液状になってどこか去っていった。

「やっぱり、物理では捕まえられないかぁ。捕まえられたら機関からたんまりお金貰おうと思ったのになぁ」

 先生は至極残念そうに頭を掻く。

「先生。助けて頂いてありがとうございます」

「いいよいいよ。無事で何より。じゃあ、あしたねー」

 にこやかに手を振って先生は帰っていったのであった。


 翌日、またあの人影が来ないようにいろんなお札を貼られてしまったっという裏話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密共有病 黒幕横丁 @kuromaku125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ