第二話 AIという存在

「AI生成ねぇ……まぁ、面白いとは思うよね」


 ハルカは食堂のコーヒーをクイッと飲むと、一息ついた。今朝、AI生成された自分そっくりの文章を見てショックを抑え切れなかった私は、ハルカに相談してみる事にしたのだった。


「面白いかなぁ、なんか真似されてるみたいで怖くない?」

「怖さ……もあるけど、そもそもAIってロボット寄りじゃん?ロボットは人間の単純作業を、人間の手を煩わせずに済むように作られたものでしょ?だから人間の為に発達してる技術って考えたらそんなに怖がる必要もない気がするけど」

「うーん、でも、仕事奪われたりさぁ」

「あー、確かに。けど、そうなると資本社会が問題だよね。本当は仕事なんて全部ロボットとAIに任せて、人間は悠々自適に自由な時間を過ごしたいじゃん?けどお金が無いと生活出来ないってジレンマね。きっと過渡期なんだよな。本当に自由な世界ならお金なんて必要無くなる……」

「そんな難しい話したいんじゃ無くて!ほら、AIイラストにイラストレーターが抗議したりしてたじゃん」

「あー、確かに、創作もAIがやったら、人間の存在意義が無くなるか」

「そうそう!そういう怖さ!」

「けど、突き詰めちゃえばAIの生成手順と人間のそれって根本は変わらないじゃん?人間だって経験から学んで、それを出力するわけでしょ。AIはそはを全部データでやるからスピードが段違いってだけでさ」

「そうなの?」

「うん、だから人間が脳みそを直接ネットに繋げて作業したらAIに負けない……気もする。逆にAIは人権とか無いから、その作業で使われ放題ってのが可哀想だよね。なんかそんな映画あったな、アンドリューみたいな」

「人権か……確かに権利関係の話も記事になってた気がする。著作権とか」

「人間同士ならオマージュになるのに、不公平だよな」

「でもさぁ、AIはズルって感じしない?」

「感情論だって。例えば義手とか義足付けてる人を見ても、ズルいって感情は湧かないだろ?」

「うん。それはまぁ……」

「それと一緒だよ。あくまで公平にする為に作られた道具。そろばんを習ってなくて暗算が苦手な人は電卓を使う。絵の勉強や努力が出来なかったり、才能がなくて絵が描けない人達は、AI生成を使えば"公平に"絵が描けるようになるってだけの事」

「うーん……」

「権利問題は確かに危なそうだけど。広い視野で見たら人類の進歩だよ。まぁそれでアナログな努力とか才能が廃れて行くのは世の常だよ……写実表現だって写真に淘汰された」

「絵と写真は別物だよ」

「表現の幅広さで生き残れたってだけの話。当時は危なかったんだよ」

「ふぅーん」

「けど、今は間違いなく歴史的に見て変換期だろうから、色々整備されるまで感情論は置いて、上手く立ち回るのが良いと思うな。ほら、最近書籍化したあの子も自分の小説にAIイラストくっ付けてから人気爆発したらしいよ」

「え!そうなの?」

「そうそう、やっぱイラストって強いよねぇ。私もやろうかな」


 その日の夕方。私は思い切って、昨日AIが生成した文章を投稿してみる事にした。

 あとがきに“体調を崩して投稿遅れてすみません!文章に変な所あったら指摘お願いします。”と書き加えて――


 投稿した作品の評価は上々だった。誰も、AI生成された文章だとは気付いていないようだ。これなら……


 その日から私は、あらすじだけ考えて、AI生成した作品を投稿し続けた。

 数秒で生成される文章を読み返して、少し推敲してから投稿する。毎日単純作業を繰り返すだけで小説が書けた。

 投稿頻度という問題が解決した私の小説はランキング上位を獲得し、何事も無く完結。

 次の作品も同じスタイルで投稿を続け、そちらは常に週間ランキングにランクインし続けた。

AIを使い始めてから、制作時間は大幅に減り、アイデアを練ることに没頭出来る様になったお陰で、小説のネタはどんどん面白くなっていった。


 そして大学卒業を前に、二つ目の作品は書籍化が決まった。


 なんだ。こんな簡単な事だったんだ。

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