第21話
一章
マリちゃんとただいま
その④
「わ〜、やっぱり海岸道路は真っ赤です〜。青果市場の方はちょっと空いてるみたいですよ。」
マリが助手席で俺のスマホでルート検索結果を報告する。う〜んコレだからゴールデンウイークのこの街は外に出たくないんだよな。西地区に行くと言ってた星羅さん今頃渋滞の中でブチギレてるだろうなあ。
「あっ、着信です。星ヶ丘星羅さんです。出ますか?」
嫌な予感しかしないけど出ないと後が怖いし。
「運転中だから代理頼むわ。総員対ショック防御態勢を取る様に」
「アイアイサー!ポチッとな。」
マリが応対のボタンを押すといきなり大音量の怒号が飛び出して来た。
「ちょっとぉー!何よコレ!いきなり大渋滞で全く動かなくなったんだけど!?」
ふうヤレヤレ、全く元大都会民はせっかちだな。
マリがスマホを俺の耳元に近付けコクリと頷く。
「ああ、それは
困り物なんですが、地元経済の繁栄って言う側面も有るんで「またかよ」ってみんな笑って受け入れてますね。最近じゃわざわざ渋滞にハマりに行く暇な好事家も居るんで更に酷くなってるんですよねー。」
「ソレってただのヘンタイじゃないの!?渋滞を新種の海産物みたいにサラッと受け入れてんじゃ無いわよ!」
どうやらイライラメーターがレッドゾーンに差し掛かっている様だ。ヒヤリハットを装備してないのか。
「あんまりカッカしてると追突しちゃいますよ?
動かないならサーフィンとか眺めていれば楽しいですよ。」
「なんでわたしがリア充がキャッキャウフフしてるの眺めなきゃイケナイの?アイツラみんな波に攫われれば良いのに…アラ?なんか小麦色のサーファーガールがロングボード振り回してチャラ男を追い掛け回してるわね。あっ、ぶん投げたボードがミサイルみたいにチャラ男に命中したわ。逃げ遅れた仲間がまともにラリアット食らって吹っ飛んで成敗されて引き摺られて行ってる。きっとナンパ野郎ね。キャハハ!良い気味だわ。」
なんかめっちゃデジャヴを感じるんだが、最近の女の子の間でチャラ男を襲撃するのが流行ってるのか?
「ひるがおちゃんまたやってる…。ホントに暴れん坊だなぁ。また新しいニックネーム考えなきゃ…」
マリが何やら考え込む様にボソボソ呟く。
「ね〜ママ〜、おトイレ〜。」
輝良羅君の可愛い声がスマホ越しに聞こえて来る。
この子の声って妙に庇護欲を唆られるんだよな。
人懐っこい性格と相まって引っ越して来て直ぐに仲良しになった。一人っ子の俺は弟分が出来てお兄ちゃん気分を満喫させて貰っている。正直兄弟が多い弐狼がちょっと羨ましかった。
「そんなに急に言われてもオシャレなカフェやレストランはどこも満車だし…そこのジモティー!なんとかしなさいよ!わたしの可愛い輝良羅が大洪水になったらアンタのせいよ!」
輝良羅きゅんが大洪水、だと…!?はっ?俺は今何を?イカンイカン!兄貴分失格じゃ無いか!全くなんて想像させるんだこの母親は!ちょっとイジワルしたくなって来た。
「お掛けになった電話は現在…」
「バッチリ繋がってるけど!!」
「弊社にはジモティーなる者は在籍しておりません」
「善丸さんにお願いしたいんだけど!」
「善丸なら3名居りますが、金と銀と普通の善丸どれになさいますか?」
「選べ無いのに選択肢用意する必要無いでしょ!さっさとしなさいこのポンコツ!」
「すいませんね〜、スペック低いんでオサレなお店とかサーチ出来ないんですよ。すぐ先にオススメのお店が有りますけど。駐車場も広くてめっちゃ人気店ですよ。」
「すぐそこって…ねえ、〝背徳のすてき丼海岸通り店〝ってのしか無いんだけど!なにアレ?ビキニパンツ一丁のガタイの良いオジサンが呼び込みしてるわよ!」
「あっ、ラッキーですね。ソレはステーキ丼専門店の名物社長です。脱ぎ癖があるんですけど社長がいたら割引になるんですよ。オッサンの裸見ながらステーキ丼食べなきゃイケナイのがアレなんですが。」
「嫌に決まってるでしょ!このわたしがなんでこんな暑苦しい店で丼飯掻っ込まなきゃイケナイのよ!」
「ママ〜!そろそろ限界かも〜。あっ、裸のオジサンと目が合っちゃった。ヘイ!カモ〜ンって呼んでるみたい。ステーキ丼食べたくなっちゃった…」
「ちょっと!変な人と目を合わせちゃダメって言ってるでしょ!あ〜っ、ホラ!こっち来ちゃったじゃ無いの!」
「ヤアヤア!ソコのキュートな車のプリティーボーイとビューティーレディ!渋滞にハマってさあタイヘン、てトコだネ。そろそろお腹がスーパーカーの車高みたいになってると見たネ!ほ〜らお肉の焼ける香ばしい匂いがたまらないだろう?当店自慢の〝シャリあっ品そぉす〟がご飯と相性バツグンで特盛だってペロリとイケちゃうヨ!今なら割引券とデザート無料券をプレゼントしよう!食後にボクのランボルギーニにも乗せてあげようじゃ無いか!どうかナ!?」
「えっ!?ランボルギーニ?マジ!?」
どうやらブランド物ダイスキ星羅さんが食い付いた様だ。
「ほ〜らアソコにオレンジのアヴェンタドールSVJが見えるだろう?ランボルギーニが派手で何が悪い!ステーキ丼が安くて美味くて何が悪い!裸になって何が悪い!」
「ランボルギーニは良いんだけどなんで変なキャラがプリントされてんの?」
「その娘はうちのマスコットキャラの〝モ〜
「ねえソレ主にあの青い車の人達でしょ?そういうの搾取って聞いたわよ?」
「おや?コレは随分マニアックだネ。搾りたてがお好みかナ?モチロン搾りたてミルクもあるヨ!うちは地産地消がモットーだからネ。」
「地産地消…?よ、寄らないで!アンタなんかにあげる分なんてないから!」
地産地消と聞いて今迄グッスリだった弐狼本体が覚醒した。
「だったら俺に売ってくれよ星羅ちゃん!何なら定期コースで契約しても良いぜ!大分年離れてっけど俺、元人妻もイケるから!」
するとマリが弐狼から無理矢理コントロールを奪いスマホに向かい星羅さんに抗議する。
「搾取じゃありません、文化ですヨ!多分星羅さん間近でちゃんと見たこと無いですよね?匠の技と美的センスが織り成す伝統工芸です。あ、ランちゃんのフィギュアしっかり観察してレポートしてくれたら嬉しいです。」
「契約もレポートもしな〜いっ!!弐狼君!アンタには頭にミサイル落としてあげるから頭上に注意しときなさいよ!」
「ママ〜!もう無理!ボクお店でおトイレ借りて来る!ついでにフィギュアも観察して来るから!」
ガチャリとドアを開ける音がして
「みっぎ見〜てひっだり見〜てハイハイハイッ」
輝良羅君が
「あっ!コラ待ちなさい!アンタにはまだ早いわ!
わたしよりおっぱいがデカいのはダメよ!有害指定よ!認識が歪むのよ!」
星羅さんも大概だな。ドコ情報なのかイケナイ方向に暴走してしまっている。これは再教育の必要性が有りそうだ。
「心配には及ばないヨ。うちは100%安心安全の厳選食材オンリーだからネ。ビーフに飽きたらポークやチキンも有るからYOUみたいなワガママダムも大満足間違いナシ!一口食べたらモ〜止まらないのサ。」
「誰がワガママダムよ!わたしまだ26よ!ああっ!
輝良羅がポークの群れに突っ込んで囲まれてる!あの子はもう!」
「アレは順番を譲ってくれてるのサ、マミー。混雑時の入店はエントリー制だからネ。ブルーカーズの常連君達はヴィジュアルはポーク、ハートはチキンでもジェントルマンだからリアルキッズとはいつも仲良しだヨ。」
「そのうちアンタもまとめて通報されるわよ!」
「気の短いポリスレディに何度かドナドナされたけど1枚履いてるからギリギリセーフなのサ。取調べ室のメニューはカツ丼からステーキ丼にリニューアルする様にサジェストしたヨ!あと今履いてるのはアンダーウェアじゃ無くて水着なのサ。パンツじゃ無いから恥ずかしく無いヨ!」
確かにお店の目の前は海岸道路を挟んでビーチだしこの陽気ならパンツ、もとい水着でも不思議じゃ無いがオッサンが言って良いセリフじゃあ無い!
すると弐狼がまた思い付いた様に
「フッ、天才の俺が全てを解決してやるぜ!星羅ちゃんが脱げば良いんだよ!青空の下で全部開放しちゃえば嫌な事なんて吹っ飛ぶし、男性客があっと言う間に千客万来だぜ!」
「オーナイス!さあ、ビューティレディ!ボクと水着でセールスしよう!バイト代は弾むヨ!賄いで特盛ステーキ丼も付けよう!ヘイ!スタッフカモ〜ン!!」
パチン!と指を鳴らし、どこから湧いたのかドカドカと足音が聞こえて
「イヤ〜!!ヤメて!無理矢理連れてかないで〜!!ちょっと弐狼君!アンタ覚えてなさいよ〜!!」
遠ざかって行く星羅さんの断末魔を最後に通信は途絶えた。どうなる事かとヒヤヒヤしたが珍しく弐狼が役に立ったな。弐狼マリがセルフで自分の頭を撫でてやっている。
後日輝良羅君が詳細にレポートしてくれた内容によると、おトイレから帰って来るとビキニ姿の星羅さんが真っ赤な顔で社長以下数名の水着スタッフと盛大に呼び込みをさせられ、通りがかったパトカーの怖い女性警察官に怒られたらしい。星羅さんは「なんでわたしまで…」と特上の特盛ステーキ丼をガツガツと掻き込んで、お店の入口のガチャポンをブツブツ言いながらひたすら回していたそうだ。ちなみに輝良羅君も特盛ステーキ丼をペロッといったらしく、お肉は柔らかくて「シャリあっ品そぉす」がとても香ばしくて美味しかった、また行きたいとの事。
モ〜珠ランちゃんのフィギュアはブルーカーズのメンバーに買い漁られあっと言う間に売り切れて、ショーケースの中でターンテーブルの上でクルクル回ってたのを眺めてただけで
「ランちゃんのおっぱいとお尻が凄いボリュームだった。柔らか素材のおっぱいがプルンプルンしてた。
ミニスカートのパンツが凄く作り込まれてて、興奮したお兄さんが「この原型師はコダワリが凄いでゴザルな」と賞賛していたそうな。
「ボクもステーキ丼一杯食べてランちゃんみたいなナイスバディになって太助兄ちゃんの嫁になるよ!」
と言ってくれたのは喜んで良いのだろうか?
いや、男の子は一杯食べてもランちゃんにはなれない気がするんだが。
「お、お嫁さん…!?ライバル登場…?」
なんかブツブツ言い始めた弐狼マリを一瞥して俺は街の北側を走る市場通りに向かった。
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