第4話
一章
マリちゃんとこんばんは
その③
ヤバいヤバいヤバい!俺の車に幽霊が乗ってる!其れもエンジンフードに!どうして?何で俺なんだ!とにかくお帰り頂かないと。そうだ、助手席のお荷物生け贄に差し出せば良くね?
頭がグルグル回って考えが纏まらない。
車を走らせながら、再びチラリとルームミラーを見る。ペタンと座り興味深そうに体を屈め、リアウインドウ越しにコチラを覗き込むソイツと目が合った。
すると、バツが悪そうに慌てて「知りませんよ〜?」とでもいった風にわざとらしくフッと目を反らしてしまった。
この野郎!こっちはガチヤバいってのに!
ハンドルを握り締め、平常心、平常心と自分に言い聞かせる。
畜生、買ったばっかだってのに冗談じゃねーぞ!新車じゃねーけど俺のバイト三昧の日々の血と汗の結晶なのに!
「お、オイ太助オマエ大丈夫かよ?顔が真っ青だぞ?なんかネットじゃ二年程前にココで事故死した女の子の霊で必死の形相で叫びながら追い駆けて来るって。あとめっちゃカワイイらしいけど捕まったら一緒に冥土に連れて行かれるとかなんとか。とにかくガンバレ!俺はこんなトコでオマエとあの世にランデブーは御免だからな!」
俺は更にルームミラーを見る。
顔は良く見えないが、大人しく座っているようだ。周りの景色を楽しんでいるのか、時々体が動いてのけ反ったり手を付いたりする。
こちとらジェットコースターじゃねーっての!
「オイ弐狼!次の広場んトコで車止めんぞ!こんな状態もし取り締まりのパトカーなんかに見つかったら下手すりゃ殺人未遂だよ!」
「おっ?休憩か?あの自販機広場か。俺ホットでいーわ。安心しろよ太助、もう死んでるからイイトコ殺人罪くらいじゃね?マスコミにはアイツはいつか殺る男だと思ってましたってコメントしといてやっからよ。」
「オマエはオマエでこの状態に馴染んでんじゃねーよ!安心出来る要素が有るなら説明しろよ!ってか、奢らねーっつってんだろ!」
クソっ!コレだから、貰い癖の付いた動物は嫌なんだよ。〝餌を与えないで下さい〟って書いたプレート下げさせとくか。ああ、もう色々限界だわ。脂汗が止まらねぇ。
それから少し先の左カーブを抜けた場所。
車5台分程の通称自販機広場に素早く車を止め、車を降りた俺はゴクリと生唾を飲み後部座席、もとい薄い鉄板の上で夜景を堪能している
《それ》
に声をかけた。なるべく刺激しない様に、
穏便に。分かってる、相手は人外だ。
「ちょっとソコのアンタ!」
ビクッとした幽霊はアタフタとキョロキョロ辺りを見渡し、
「アンタだよ!」
再び声を掛ける。自分を指差す幽霊にコクリと頷く。
「あっ!こ、こんばんは!今日は良いお天気ですね!」
「え、ああ月がキレイだな」
「い、いきなりプロポーズですかっ?」
「違う!もっと切実かつ、緊急な話しだ!」
最早度重なるストレスに俺の理性は限界を迎えつつあった。
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