初恋の結末


「まあ、そういう訳でですね……僕は彼女に片思いをしていて、会う度にドキドキしていたものです。……だけど、そんなある日の事。彼女との別れがやってきました」


 僕が笑みを減らしながら、どこか哀愁漂う顔で小さく呟くと、一条さんは急に真面目な顔になって聞き返してきた。


「どうしたのよ? まさか失恋したとか?」


「はい。そのまさかですよ」


 僕がはっきりと返事を返すと、彼女は驚いたように目を見開いたかと思えば、次の瞬間には深い溜め息を吐き出すのだった。その様子は何だか呆れているようにも見えるのだが気のせいだろうか……。


「実はひめちゃんのお父さんの仕事の関係で引っ越す事になったんです。せっかく仲良くなったのにお別れなんて……その時の僕の悲しみと言ったら計り知れませんでしたよ……」


 懐かしみながら呟くように語る僕に対して、一条さんはただ静かにこちらを見つめていた。その瞳は先程までとは違って真剣である様に感じる。


「……それで? それ以来、その子とは会っていないの?」


「はい。今の僕には連絡先なんて知りませんし……それに引っ越すって事はつまり、もう二度と会う事も無いという事ですからね……」


「………」


 僕が喋り終えると一条さんはまたも黙り込んでしまった。その反応から察するに、想定していた様な内容だったからつまらなかったのかもしれない。いや、確実にそうだろうな……。


「あの……一条さん?」


 沈黙に耐え切れなくなった僕が恐る恐る声を掛けると、彼女はハッと我に返った様子でハッとして僕を見つめてきた。


 それから彼女は小さく咳払いをしたかと思うと、ジト目でこちらを見てくる。その無言の圧に耐えきれず目を逸らすも、しつこく睨まれるので諦めて彼女の方に向き直る事にした。するとそこで待ってましたと言わんばかりに口を開いた。


「……何よ? もう終わりなの? そんなんじゃ話にならないわね!」


「ええっ!?」


「だって、そうでしょ! 好きだった彼女が引っ越しちゃったから、失恋しました~だなんて、話しのオチとしてどうなのよ?」


「そう言われましても……」


「もっと何かこう……他に無い訳? ほら、そのひめちゃんとの別れ際で何かあったとか、そういったエピソードは無かったの?」


 そう言って一条さんは僕に食い気味に聞いてくる。……何だろう。話にならないとか言ってたくせに、食いついてくるし……そんな事を疑問に思いつつも僕は彼女の質問に答える事にした。


「そうですね……そういえば、引っ越しの日の前日にお別れ会があって、その時にひめちゃんへプレゼントを渡しましたね」


「……どんなプレゼント?」


「確か……そう、リボンでしたね。彼女に似合いそうな、可愛らしい感じの色をしたリボン。なけなしのお小遣いをはたいて買ったんです」


「……ふーん」


「そうしたら、彼女……とても喜んでくれて。ありがとうって言った後、僕の事をぎゅっと抱き締めてくれたんですよね。あの時ばかりは別れのショックとか悲しみとかで、頭の中がグチャグチャになっていたんですけど……彼女の方から抱き着いてくれたので吹っ飛びましたよ。えへへ……」


 当時の事を振り返りながら喋る僕だったが、その時の事を思い出して自然と笑みが零れてしまった。それを目の当たりにしてしまった一条さんは何故か不満そうな表情を浮かべた後、僕の頬をつねると引っ張ってきた。


「いてて!?」


「ニヤついてないで続きを喋りなさいよ!」


 そう言って僕の頬から手を離した彼女は再び睨みつけてきたのだが、その表情には先程までとは違いどこか怒りの色が見えた気がした。えっ……なんで? なんで怒ってるのさ?

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