玉砕覚悟な秘密の初恋話
「その昔、僕には好きな女の子がいまして……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
突然声を上げてきた一条さんに、僕は言葉を止めざるを得なかった。……何だろう? 予想とは全く違う反応だったな……。不思議に思った僕は首を傾げながら彼女へ尋ねた。
「ど、どうしたんですか?」
「あ、あんたねえ! そんな恥ずかしい話を自ら語り出そうなんて正気なの!?」
顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる一条さんを見て、逆に僕が驚いてしまった。その勢いのまま僕は叫ぶように返す。
「正気じゃなかったら、こんな話をしませんよ!!」
「開き直るんじゃないわよ、このバカッ!」
僕が自信満々に答えてみると、それに対して今度は彼女が呆れ顔でツッコミを入れてきた。いや、だってさぁ……僕の秘密を言えって言い出したのは君でしょうが!? だからもう、僕は止まらないよ!
「だから、僕は語ります。僕が恋した女の子についての話……」
「や、止めなさいよっ!」
恥ずかしがっている一条さんを他所に僕は己の過去について語る事を止めなかった。もうこうなったら意地でも引く訳にはいかないのである!
「あれは、そう……かなり昔の事、おじいさんとおばあさんが―――とかは関係が無く、僕が幼稚園に通っていた頃の話です。僕の初恋は、近所に住んでいた小さな女の子でした」
「ま、待って……!?」
すると、何故か慌てた様子で一条さんがストップを掛けてきたけどもう遅い。僕は自身の幼少期を振り返るかのように遠くを見ながら続きを話したのだった。
「彼女はそれはもう、とても可愛くて可愛くて……もう、見ているだけでメロメロでドキドキして。物静かな性格で滅多に喋る事はなかったんですけど、すごく優しくて素敵な女の子だったのを覚えてますよ」
「そ、そうなのね……」
「綺麗な金髪の髪の毛にひらひらとしたドレスの様な服を着て、まるで物語に出てくるお姫様みたいだったんですよね。だから、僕はそんな彼女の事を『ひめちゃん』って呼んでいました」
「ふ、ふーん……」
「……あの、さっきからどうしたんですか?」
僕が話す度に何だか反応する一条さん。明らかに様子が変である事は明らかだったが、彼女に尋ねる僕に対して彼女は目じりを上げながらこう言ってきた。
「べ、別に何でもないわよ!」
明らかに何かありそうな言い方で否定してきた一条さんに僕は首を傾げる事しか出来ない。しかしまあ……本人がそれ以上何も言って来ないならいいかと思い直した後、話の続きをする事にした。
「それで、その子……ひめちゃんと遊ぶのが本当に楽しみで、僕は毎日外で遊んでいる間も、家に着いた後もずっと頭の中は彼女の事ばかり考えていました」
「……へー」
「幼稚園児ながら、僕ははっきりと確信をしていました。これが恋だってね。だからこそ、僕はいつも彼女と一緒だったし、側にいる事が当たり前でした」
「な、なるほどね。でも、それってポチの一方的な片思いなんじゃない? そのひ、ひめちゃんはどう思ったのよ?」
僕の話を聞いていた一条さんが、ふと思いついた様子で口を挟んできた。それに対して僕はつい笑みを漏らしながら答える。
「確かにそうかもしれません。けれど、彼女は決して僕を避ける事は無かったですし、いつも笑顔で接してくれてました。つまり、嫌われてはいなかったはずなんですよ!」
「……何でそんなに、ポジティブに考えられるのよ」
僕の返答を聞いた一条さんが呆れ顔を浮かべながらポツリと呟く。僕はそれに胸を張って答える事にした。
「だって、昔の思い出ですからね! どれだけ美化したって良いじゃないですか!」
「あっそ」
僕の返事を聞いた一条さんは呆れた表情を浮かべながら溜め息を吐いた。それを見ていた僕は思わず苦笑いしながら続ける。
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