第12話 伊賀は貧乏なのか4

天文4年(1535年冬)4歳


そして、たぶん聞かれるだろうなと思っていた質問がくる。

あ〜疲れる……幼児は体力ないのだけど……


「伊賀は貧乏故に、攻め込んでくる大名がいなかった。貧乏な家に泥棒は入らないからな!銭を貯め込んでいると知られたら、周囲の大名たちは黙っていないぞ!」


「あいつらはとんでもない奴らだからな。銭がなければあるとこから奪えば良いと思っているのだ! そこはどうするのだ?」


「まず稼いだ銭は乗っ取った店に貯めておきます。しばらくの間、伊賀は貧乏なふりをしておいて下さい。その間にどんどん増えていく銭で常備兵を雇います。兵力増強と同時に食料の増産も行います」


「つまり、伊賀国の富国強兵を目指します。豊穣神様の加護をもらっている俺が必ず伊賀を豊かにします。民を飢えさせません。周辺の大名に負けない強い兵も作り上げます。どうか信じて下さい!」


沈黙が続く……

あれ……なんか不安……


話はここまでだ。

後は、オヤジ達が俺を信じてくれるかどうだ……


『三蔵、頭がおかしくなったか?』と言われたら家出でもしようか!

医聖として山奥でひっそり生きていくしかないか!


石見守と長門守が大笑いを始める。

2人は覚悟を決めた顔になる。


「丹波守よ、まこと面白き嫡男が生まれたものだな! 豊穣神様とお主の嫡男により、伊賀の地獄が終わるかもしれんな。いや俺たちの代で、伊賀の地獄を終わらせようぜ!」


その言葉、待っていたよ……


伝説の上忍であるオヤジ達が、覚悟を決めてくれたのか、穏やかな表情になっている。

伊賀が地獄を抜けられるか、さらなる地獄に叩き落されるか…… 


大きな判断だよ……重い判断だ。


『忍者なんてこんなもんだよ』と思えば、現状維持でもカツカツ生きてはいけるからな。


俺を信じてもらったということだよな?

俺は、安心するどころか責任重大で体が重いのだが!


「神童! 1人で背負い込むな! 暗いぞ、顔が! 伊賀の忍者の底力を信じろ。俺達もこの決断に命を賭ける!」

あれ……オヤジ達は励ましてくれているのかな?


さっそくオヤジ達が店の選定についての具体的な話を始めた。

今までの仕事柄、そういうのは得意なのだろうな……


「明日にでも伊賀の忍びで暇な奴を、総動員して堺に調査に向かわせるぞ!」


動き始めたな……


目標の店が決まった後の実行部隊も決まる。オヤジの愛弟子で組頭の霧隠才蔵の率いる組が実働部隊として働いてくれるそうだ。


その後は俺を除いた4人の宴会となる。


『前祝いだ!!』とか言いながら遅くまで騒ぐオヤジ達。

前世の記憶でもそうだけど、こういう時の酒は旨いはずだ。高揚感MAXだ。


俺も飲めたら飲みたいけどさすがに無理だ。


部屋に戻った。

俺の提案によって、伊賀の重大な決断が下された。責任重大! もう後戻りできない! 失敗すれば伊賀はどうなる?


重圧感から抜けられない。重い……

この決断に対して、一生責任を背負わないといけないな!

何度も考えたことだ! 覚悟の上だ!


俺は、その後も色々考え続ける。


いくさで儲かるのは、米だけではない。

武器や防具も儲かるはず。火縄銃は信長君が多量に買い揃えて、長篠でいくさの常識を塗り替えるはずだ。


武器や銃を作るには、腕の良い鍛冶屋がいないとダメだな。火縄銃の種子島への伝来は数年後だから、それまでに鍛冶屋の技術力を向上させておこう。

オヤジに腕の良い鍛治職人のスカウトを頼んでおかなくちゃ……


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