第11話 伊賀は貧乏なのか3

天文4年(1535年冬)4歳


上座にオヤジと服部石見守と藤林長門守の3人がニコニコしながら座っている。


「我ら神童の話を聞きに来たぞ! まこと豊穣神様が伊賀を助けてくれるのだな?」石見守と長門守から声をかけられる。


笑顔ではあるものの、俺の話の真偽を見極めようと目は真剣だ。俺は4歳。事情を知らない人が、この部屋の様子を覗けばきっと異様な光景に見えるだろう。


俺は道順に話したことを順番に説明していく。やはり、神様のお告げというフレーズは絶大だ。オヤジたちの顔は神妙そのものだ。結論から言うと店の乗っ取りなんか楽勝なのだそうだ。


さすが忍者だ! 何でもできる! 何で今まで貧乏だったのだろうか? 

そこが不思議なのだよ。


「三蔵、問題は乗っ取りの後だぞ! そこのところを我々が分かるようにしっかりと説明しろ!」とオヤジ。石見守と長門守もウンウンと頷いている。


俺は説明を続ける。


「今川家で、跡目争いが起こるのは来年6月です。その後の手順を考えると、乗っ取りは春までには終わらせていただきたい。ただし伊賀が乗っ取りに関与したことが、絶対にバレないようにして下さい」


「乗っ取り完了後ですが、早急に船を仕立てさせて新店主を駿河に向かわせます。目的は今川家のお抱え商人と伝手を作らせることになります」


「京の寺から呼び戻される『承芳』という若者側がいくさに勝ち今川家の後を継ぐことになるので、間違って負ける方に加担しないようにさせます。銭の回収が危なくなりますので」


ここで一旦説明を止めて、オヤジ達が理解する時間を設ける。


「今川のお抱え商人の中で、承芳という世継候補を支持する商人に対して、近畿からもっと米を持って来られることを匂わせます。畿内では秋の収穫時に、店の金蔵が空になるまで畿内の米を買い占めさせます」


「仮に今川に対する一連の仕掛けがうまく行かなくとも『来年7月に法華衆徒による京の焼き討ちがあること』を、豊穣神様から聞いていますので、そちらに買占めた米を売り捌いて儲けることができます。つまりどう転んでも損はしません」


ここでオヤジたちの反応を見ることにした。


「うまくいきそうな話だな、しかし儲け話は今回限りなのか?」と、そこがオヤジ達は気になるようだ。


オヤジ達、乗ってきたな……


「この国は、至る所でいくさが起こっています。豊作で安くなった国の米を買い占めておいて、いくさが起こりそうな国で売り捌く。この安く買って高く売ると言う商売を、何回も行えば信じられないくらいボロ儲けできるはずです」


「堺の多くの商人は、これで身代を大きくしているのです。しかしこの商売は簡単なようでとても難しいのです。『どこでいくさが起こりそうか。どこで米が安く買えそうか』を知る必要があります。しかも誰よりも早くです。これが商売で大きく儲けるための前提条件となります」


「つまり生き馬の目を抜いたものが儲けられるのです。他国に忍び情報を得て、それを逸早く伝えることは、まさに伊賀の忍者が得意とするところではないのですか?」


「そのためには、他国にも伊賀忍者の拠点を作る必要があります。乗っ取った堺の店に支店を作らせましょう。もしも他国の忍者と誼を通じることができるなら遠国の忍者と提携しても良いでしょう。お互いに儲けが出るなら提携できるのではないですか?」


俺の話を聞きながらオヤジ達、少しは忍者のポテンシャルの高さを認識してくれたかな……


いくさもビジネスも情報を制した方が勝つのだよ。この日の本で情報を制することが出来るのは忍者だけだよ。それだけじゃないよ。嘘の情報も流せるのだよ。

これって最強だよ……


「お前の言う通りにやれば、伊賀は大名から獣同然にこき使われる、地獄のような生活をやらなくて良くなるのだな! 間違いないな!」


「そうです! これで伊賀の地獄を終わらせることが出来ます。俺を信じて下さい!」




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