第10話 伊賀は貧乏なのか2

天文4年(1535年冬)4歳


この時代の日本人は信心深い。道順に対しては、神様からの話にした方が信じてもらえるだろうな。今後のことを考えれば、なんとしても道順に納得してもらわないとな!


俺は姿勢を正す。

「正月の朝、俺の枕元に豊穣神様と名乗る神様がお立ちになられたのだ」と話し始める。

神様のお告げと聞いて、道順も神妙な顔をしながら姿勢を正す。流石、神様効果! ありがたし!


「神様のお告げとは何とありがたいことか! して、どんなお告げであったのかお聞かせください」

「神様が仰せになるには『来年の6月に今川家で跡目争いが起こる』のだそうだ」

「それだけでは、何のことか分かりませぬぞ!」


「俺もその話だけではさすがに神様の意図が分からなかったので『凡夫にも分かる様に教えて下さい』と、神様にお願いしたのだ!」


「何の事か教えていただいたのですか!」

「神様は優しい笑顔で『伊賀の民がこれ以上苦しむのを見ていられない。その方が何とかせよ。どうすれば良いのか己の頭で考えてみよ』と仰せになられたのだ」


「それでは、若の考えが正しいかどうか分からないではないですか? 神様が再び現れることはないのですか?」


「お前にはこれからも、いろいろなことを教えてやろう」と仰せになられました。


……俺は嘘つきです……

でも神様が……という話の方が100倍は信じてもらえるからね!


「結局。若がどうお考えになったのかお聞かせ下さい!」

道順が興味を持ってくれたようだ。いいぞこのまま最後まで信じてくれ!


「駿河の国は米がたくさん取れるのか?」

「水田に適さない土地が多いため、米はあまり取れないと聞いていますぞ」


「今川家で跡目争いが起こるということは、いくさになる可能性が高いと言うことだ! 今川家の跡目を争う勢力は、いくさが始まるまでに米や武具を目一杯買い揃える必要があるよな! 我らで事前に畿内で米を買い占めておけば、それを駿河で転売して大きく儲けることができるではないか! つまり伊賀は裕福になるのだ!」


「若、なるほど理屈はそうですが、伊賀には蔵を逆さに振っても米を買い占める銭などありませんぞ!」

「銭など作れば良いではないか!」


「そんな簡単に銭が作れるなら、伊賀は苦労しておりませんぞ!」

道順が興奮しているな! 話に乗ってくれている証拠だぞ! いいぞ、頑張れ俺!


「銭の作り方を説明するぞ! まず堺に忍びを派遣する。次に悪どい商売でがめつく大金を溜め込んでいる店を調べる」


「候補になった店の中から、店主の評判が最悪な店を絞り込む。次に最悪な店の店主の弱みを握るなり脅すなりして、店主が隠居するしかない状況を作り出す」


「店主を隠居させたら、新しい店主が必要になる。そこで、手なづけた番頭を店主に据える。最悪な店を良い店に変身させるのだ。つまり、良い店として伊賀の店が誕生する訳だ!」


「ただし神様に怒られるから、店主は懲らしめるのであって殺してはならないぞ。ここは注意してほしい!」


「もう一つ気をつけることは、他の店や近隣大名たちに、店の乗っ取りを気づかせないようにすることだ! そして『こんな店主は天罰が降って当然!』と、皆が納得してくれれ最高だ!」


「どうだ! 伊賀忍者で出来そうか?」

「乗っ取った後はどうするので?」


伊賀の忍者に商売は無理だと、心配しているのだろう!


「店の切り回しは、意のままに動く番頭にやらせればいい。その店を使ってどう儲けるかは俺が行う。つまり実質の店主は俺だ! 心配するな! 店に指示は出すが、俺が堺の商人を目指す訳ではない!」


さらにその先も説明を進めようとしたのだが、道順はニコニコしながら大急ぎでオヤジのところに走っていく。


道順からその話を聞いたオヤジは「伊賀にとって大事な話があるので至急集まって欲しい」と、服部石見守と藤林長門守に招集をかけた。


翌日には三家による合同会議が行われた。

もちろん俺も道順に連れられて座っている。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る