第9話 伊賀は貧乏なのか1
天文4年(1535年冬)4歳
4歳なので前世では3歳だから、『元気に幼稚園に通おうね』の年齢だ。京では管領の細川晴元が偉そうにしている。足利将軍はオマケ扱い。
ところで
4歳になるまで、俺はいろいろ我慢していた。やろうと思えばオヤジとも、普通に大人の会話ができるよ。歩けもしない幼児が、いきなり大人のような会話を始めれば、『物の怪め、成敗してやる』となる可能性大だ。
普通に喋れるのに、赤ちゃん言葉に変換して話すのは疲れたわ〜。4歳になったら『伊賀の民を幸せにする』ために行動を起こしたいと思っていた。
しかし4歳になった途端に、いきなり大人のような振る舞いを始めれば、あまりのギャップに大騒ぎになるに違いない。だから今まで少しずつ、『少しだけ成長が早い子供ですよ』という刷り込みを周囲にしてきたのだ。
しかしそれが良かったのか悪かったのか。幼児なのにどうも大人の会話を理解しているみたいだと評判になる。そのうち冗談で人生相談をしてくるけしからん下忍たちも出てくる。
俺は相談内容につい同情してしまった。その結果! どう考えても幼児に相応しくない、しかも的確なアドバイスをしてしまう。そんなこんなで4歳になるまでには、伊賀では、百道家に神童が生まれたと評判になってしまったのだ。
治癒スキルもどんなものか試してみた。まずは自分自身にね。風邪引いたかなという時に使うと凄く元気になる。そしたらやっぱり他の人にも試してみたくなるのが人情。俺を抱っこしている人で試してみた。
顔色の悪かった婆ちゃんなんか、一発で顔色が良くなり元気ハツラツだよ。それを見ていたら、やっぱり他の人も試してみたくなるでしょ。なるよね! その結果! 皆が元気ハツラツになっていく。
最近では『百道の神童』に加えて『万病を治す神の使い』とかいう噂が伊賀中に広がりつつある。俺は伊賀の聖人を目指すわけではないので、『勘違いされて子供が大変迷惑している』という噂をオヤジに流してもらう。
お陰で噂が広まるのが一時的に止まった。以後治療するのは、忍者のお仕事で大怪我をした忍びだけにしている。誰にも言うなよってことでね。
怪我を治した忍びからは「若に、終生の忠義を捧げます!」とか言われているのだが。とにかくあまり大事にしないでほしい。戦国時代に目立つのは危険なのよ。本当だよ!
4歳になったら、俺に傅役が付けられた。
道順の奥さんの怪我を、俺が治したことに恩義を感じ、自分から傅役を買って出てくれた。この人は伊賀流組み打ち術の名人であり。俺の忍術の師匠になる予定だよ。いよいよ俺も忍術を使えるようになるのか……楽しみだ。
「道順、伊賀は貧乏なのか?」
「貧乏でなければ、誰も忍びなどやっておりませんぞ!」
「どうすれば伊賀が貧乏でなくなるかな?」
「そのようなことを私ごときが思いつくようなら、とっくに伊賀は豊かになっておりますぞ!」
「良い方法を考え付いたのだが、道順の意見を聞かせてくれないか」
「承知いたしました!」
道順の表情が引き締まっている。
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