第7話 忍びの仕事1

天文元年(1532年)1歳

(戦国時代では生まれた時に既に1歳らしい)


当たり前だけどまだ動けない。だが耳は聞こえるし言葉も分かる。寝っ転がっていても、家にいる皆さんの会話は耳に入ってくる。


今年は天文元年。管領をやっている細川ナントカさんが、やたらと畿内でいくさをしまくっているようだ。迷惑な奴だ!


管領さんは何がしたいのか? 足利将軍さんは何がしたいのか? 民に迷惑かけるとかいう概念はないのだろうな! 民とは自分たちの都合の良い道具とか奴隷とかぐらいの認識なのだろう。


権力者がよく使う『民草』という表現は、ほっておけば勝手に生えてくるという意味だよ。前世の時代劇によく出てくるセリフだな。すごく嫌な言葉だ! 彼らは生まれたときから、そういう考え方が刷り込まれているのだと思う。


こういう権力者のせいで、世の中には民の泣き声や怨嗟が渦巻いている。しかし民の方も『これで良いのか? こういう世であるべき』とかいう概念はないのだろう。


彼らは生まれたときから『自分たちはこういうものだ。世の中は変わらない』という考え方が刷り込まれているのだと思う! 教育機関とかもないしね。ただ生きるのに精一杯。何かを考える余裕もないだろう。


どころで、なんで俺の耳に皆さんの会話が聞こえるかって! はっきり言ってこの百道屋敷はとっても小さい。これが屋敷なのかな? ボロいことは確かだ。風スースーの隙間だらけだから、屋敷の中の会話なんて全部丸聞こえよ。


俺の父親の百道ももち丹波守たんばのかみ三太夫さんだゆうは伊賀の上忍さんだ。母の名前は楓。前世の百地の家系はどうだったか記憶がないけど、母が美人というのはうれしいね。


そういえば、神様が「あなたの知っている歴史とピッタリ同じではないわよ」と言っていたな。まあ歴史の流れなんて、バタフライ効果だったっけ。何かのちょっとしたキッカケで揺らぎが起こるはずだから、前世とまったく同じ歴史をトレースするはずないよ。


そもそも俺が歴史の異物でしょ。歴史の大きな流れが概ね合っていればそれで良しだと思う。前世の歴史の知識なんて、ここだという局面で1回か2回使えれば良いと思う。上手くいくかどうかもわからないけどね。歴史の知識なんて、その程度のものだ。


伊賀忍者組織は上忍の下に中忍(組頭)、さらに下忍(実行部隊)という形態になっている。伊賀国には多くの小豪族たちがいて、名ばかりの守護もいる。しかし基本的に3人の上忍、『百道丹波守三太夫』、『服部はっとり石見守いわみのかみ保長やすなが』、『藤林ふじばやし長門守ながとのかみ正保まさやす』が伊賀を仕切っている。


この3人の話し合いで伊賀国(小豪族の連合体)の運営が行われている。ちなみに〇〇守は自称。つまり勝手に名乗っているようだ。戦国時代アルアルだよね。


3人の勢力区分だが、オヤジは伊賀国の南側豪族を配下にしていて、その勢力圏は伊勢国と大和国との国境を持つ。主に北畠家からの忍び仕事を請け負うことが多いらしい。しかしいつも偉そうな北畠家が嫌いなようだ。


藤林は伊賀国の北側豪族を配下にしていて、その勢力圏は近江国との国境を持つ。六角家配下の甲賀忍びとも交流を持つ。たまに今川家の忍仕事を出稼ぎしている。今川家も気位が高く、他の大名より忍びの扱いはさらに低いらしい。同じく今川家が嫌いらしい。


服部は伊賀国の西側豪族を配下にしていて、その勢力圏は山城国と大和国との国境を持つ。将軍家である足利家の忍び仕事を請け負ったりしていたが、当然幕府の扱いが最低らしく頭に来ている。


つまり伊賀の忍者は、どこの大名からも扱いが酷い。なので、伊賀の忍者も大名が大嫌いのようだ。


伊賀国はとにかく貧しい。

山間部のため平地が少ないし土地も痩せている。そのため作物の収穫が少なくなる。つまり嫌でも忍び仕事をやらないと食べていけない。下手すれば飢えて死ぬ人が出る過酷なレベルなのだ。


忍びには敵兵の撹乱や敵地の諜報収集など、いくさに関連する仕事が多い。つまり命懸けの仕事ばかりなのである。過酷な仕事に従事しても死なないために、伊賀の子供は幼い頃から過酷な訓練を受け、攻走守を基本に様々な体術を身につけている。


ちなみに上忍たちは伊賀流体術の名人であり、一子相伝の忍法もあるそうだ。少し楽しみだな。


それにしても過酷ばっかりで悲しくなる。




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