第4話 生徒指導の先生
野外活動の翌日は木曜日である。
私は重い気持ちを抱えながら、クラスの席にいた。
「N寺、今日はどうするんだろうな」
「あいつは容赦ないけど、やり返さない方が悪いよな」
男子生徒はそう言ってはやし立てていた。
私は、学校のクラスに顔を出すことはやめなかった。
どうしても学校を休みたいと親に懇願したが、父から厳しく言われたのである。
「もし、いじめが原因だとして。学校に行かなくなったら、あいつらは調子に乗ってもっといじめが激しくなる。それが嫌なら、我慢しなさい。でも、やり返してはいけないよ」と。
ただ、休憩時間はすぐに生徒相談室に逃げ込み、次の授業も状況によっては保健室へ逃げ込み、保健室の先生に調子が悪いと言ってベッドが空いていれば横になるか、話をして過ごしていた。
成績が落ちたことはやむを得なかったが、これ以上あの場にいるのがつらかったのである。
体育でケガをした生徒がたまに来たし、他の授業でケガをしたり、体調を崩した人の処置を見て、ちゃっかりと応急手当の仕方は覚えたことは、今後の人生のプラスになっていた。
ある日、お昼休憩の事。
いつものように生徒相談室に逃げ込み、ゆっくりと読書をしていた時のことである。
「失礼します。あれ? 君はどうしたの? 何かあったの?」
生徒指導の先生が来訪してきた。
「あの……、先生」
私は心細くて言葉尻が弱く話をした。
「辛いことはわかるけど、ちゃんと話しましょうね」
相談員の先生はずっと傍にいてくれた。
護衛役と自称しながらEも隣にいたので、私はクラスでいじめられていることを話した。
「急に殴られました。蹴られました。ひどい時は、野外活動中に自転車でぶつかられて、自転車から落ちてそのまま蹴られました」
「辛いときは、無理しなくていいよ。一日この部屋にもいて良いからね」
生徒指導の先生は震える私に寄り添ってくれていた。
「Eさんは、見ていただけなの?」
「ここに行くようには言いました」
「そうじゃなくて、N寺って生徒が暴力を振るっていた時に、庇ったり止めたりしなかったの?」
「それをやったら、次は私が狙われるじゃないですか。嫌です」
Eはにこやかに言う。
だが、生徒指導の先生は厳しい顔で言う。
「それをずっと、一人で受け止めてきたんだよ。やり返さないのは、手を上げたらいけないと理解しているからだし、それは難しいことだよ」
「そうなんですか?」
「手を上げたら同じになるからね。振り払うだけならともかく、殴ったから殴り返していいの?」
「いけません」
「そういうことだよ」
生徒指導の先生は、少し考えていた。
「今まで辛かったね。頑張ったね」
生徒指導の先生と相談員の先生は褒めてくれた。
だが、人が怖いという後遺症は、十何年とたった今でも薄れていない。
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