第2話 避難場所

 その日を境に、N寺は毎日のように教師がいない時間を狙って、私を暴行するようになった。

蹴る、殴るが当たり前の日々である。

男子生徒ははやし立て、女子の一部もその輪に入る。

うずくまっていても、殴ることを止めないが、自分からは抵抗をしない。

手を出したらいけない、と親から厳しく躾けられたからだ。

何度も何度も、毎日殴られる日々だ。


「生徒相談室行きなよ」

「……そうだね」

私は、ある日図書室の向かいにある生徒相談室に足を運ぶ。

護衛、と称して女子生徒の一人が付き添ってくれた。

今後彼女はEとしよう。


 その部屋に足を入れるだけでも、少し怖かった。

何をされるか分からないからだ。

「し……失礼します……」

「あら、どうしたの?」

「先生、この子イジメられています」

Eがはっきりと言う。

「誰か止めないの?」

「だって、次のターゲットにされたら怖いし、この子がサンドバッグになっていれば安心なんで」

Eが笑って言う。

「……ただ、腕が痛いし」

私がそう言うと、先生は不審そうに言う。

「腕? なんで?」

「良くわかりません」

「ちょっと腕を見て良い?」

先生は制服の袖をめくった。

右腕には、青いあざができていた。

痛い理由がよく分かった。

内出血していたのである。


「これは酷いわね……」

「でも、ここに来たって言わないでください……。こういうことをする人って、知られたってわかると激化するってうちの親も言っていましたから」

「親には?」

「言ってないです。ただ、ドラマとか見ながら、逆上して陰湿な攻撃が激しくなるというのはよく見るね、ってよく言うので」

「それもそうね……。でも、辛くなったらここにいつでも来ていいからね」

よくその部屋を見ていなかった。

だが、その部屋には『不登校』になった友人たちの姿がある。

「ここは基本自習にはなるんだけど、学校には来たってことになるから。あなたも使って良いのよ」

「ありがとうございます……」

ここを頼るのは最終手段にしよう。

私はそう思いつつ、部屋を後にした。

結局、その日は数学の授業を保健室で過ごし、帰りのホームルームには教室に戻る。


 だが、N寺は……。

私を恨みの形相で見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る