いじめられっ子の激白

金森 怜香

第1話 始まりの話

これは、中学生時代の話。

ただただ普通に、中学時代の華のお受験生だった時の事の話である。


 初夏のある日、学校の休憩時間、それも教師が教室を不在にしていた時のことである。

「ねえ、ちょっと」

「はい?」

私はある声に振り返る。

それは、クラスが同じ男子生徒だった。

クラスメイトだから当然面識はあるが、ほとんど話したこともない。

だが、目は何となく暗い。

そして、次の瞬間。

いきなりのことに、自分は理解が追い付かなかった。

何もしていないのに、右腕の二の腕に激痛が襲う。


「え……?」

ドラマなどで、被害者の反応が遅れる瞬間。

あの意味が理解できた。

いきなりのことに、理解が追い付かなかったのである。


いきなり、その男子生徒は私を殴っていた。

ちなみに、彼は「N寺」という苗字で当時の自称が未来の東大生ある。

下の名前は、卒業アルバムすら捨てたので覚えていないし、覚えていたくない。


 だが、殴ってきたN寺は一度では辞めない。

二度、三度とこぶしを振るってきたのである。

「お! 喧嘩か? もっとやれー!」

何も知らない男子生徒はそう言って煽る。

腕で顔を庇う自分を見て、喧嘩と思うのか……。

やり返していない時点で、一方的な蹂躙でしかないだろうに。

私は半分呆れていた。


 結局、N寺は一方的に殴って気が済んだのだろう。

「えー、ちょっと大丈夫?」

わざとらしく、女子生徒数人が話しかけに来る。

「……多分」

「保健室行ったら?」

見て見ぬふりをしていたくせに、白々しいものだ。

だが、彼女たちにも堂々と庇えない理由はある。

もちろん、次のターゲットにされるのが怖いから。

「保健室行ってどうなるわけ? すぐにやめてくれるの、こういうこと。絶対あり得ないと思うし」

私は彼女たちに問いかけた。

「おい、誰も言うんじゃないぞ! 良いサンドバッグを手に入れたんだから」

N寺は満面の笑みで言う。

思い返せば、私の人間恐怖はこの時から始まっていたのかもしれない。

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