【三題噺 #78】「一族」「墓」「手毬」(306文字)

手毬唄

 一族郎党のほとんどが殺され、山間の小さな廃村まで逃げ延びたときはわずか十一人になっていた。しかし、その中の一人が本家の姫様だったことが生き残った者たちの希望だった。

 生き残った者たちは我武者羅に働き、村人として暮らした。慣れぬ畑仕事も小さな姫様の手毬歌に励まされた。それを聞き姫様が好きだった手毬でまた遊ばせてあげたいとがんばった。

 だが、逃亡や慣れぬ生活の疲れからか病に倒れ墓が増えていった。

 姫様が亡くなったとき残った四人は死ねなかった。生きるように姫様が言い残したからだ

 生き残った者は遺言通り村を去り、各々生きていった。


 追手が山間の村を見つけたとき、誰もいなかった。

 新しい墓の辺りから手毬唄が聞こえただけだった。

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