【三題噺 #79】「壁」「人魚」「箱」(720文字)

ある画家の絵

 人気アイドルがその画家の絵を気に入ったと番組で喋ってから、興味を持つ人が増えたらしい。その絵は画家の今は亡き妻が花壇の花に水をあげている傍らに犬がいる絵だ。アイドルは自分が飼っている犬と同じ色合いの犬が描かれているから気に入ったと言っていた。

 ネットニュースを配信している我が社でも画家にインタビューすることになった。 記者とカメラマン兼運転手の僕と二人で画家の家へ向かった。

 門を入ると何も植えていない花壇があった。あの絵の花がたくさん咲いていた花壇かと思うと寂しく思った。

 僕たちを迎えてくれた画家は年齢不詳の男性だった。話していると画家が立ち上がり、撮影をしないという約束で別の部屋に案内してくれた。その部屋に入って正面の壁に奥さんの等身大と思われる大きな絵が飾ってあった。

 ソファーに横たわっている女性が裸のマハを真似たようなポーズを取っている。ただあれと違うのは、上半身は何も身につけていないが腰から下は白い布で覆われていることだった。壁には他にも何枚か絵があったが、全て上半身は何も身につけていないが下半身は布で覆われていた。

 僕はその絵を見て不思議に思った。横になっているか座っている絵で立っている絵はない。

「これが本当の妻の姿なんです」と言って小さな箱を開けて中を見せてくれた。箱の中には鱗のようなものが入っていた。

「これは鱗ですか?」

「そうです」

「何の鱗ですか?」

「人魚の鱗です」

 僕たちは画家の顔を見つめるが何を考えているか分からなかった。


 記事を上げて数日するともう閲覧者が一桁になってしまった。読者の興味の移り変わりは激しい。

 

 僕は何となく気になって、もう一度絵を見せてもらおうと画家に連絡を取ろうとしたが電話が繋がることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る