【三題噺 #60】「自転車」「相談」「言葉」(970文字)

おみくじの効果

「むっちゃんに相談があるんだけど……」

「なによ。さっちゃんがそんなこと言うの、小一の時に同じクラスになってから十年経つけど初めてじゃない?」

「そうかな」

「うん初めてだよ。相談に乗るのはいいんだけど場所をウチにして欲しいんだ。ウチの猫たちなんか様子がおかしいから、なるべく家にいたいの」

「病気?」

「違うと思う。いつも私が帰ってきてもキャットタワーやソファーにいて顔をちょっと向けるだけなんだけど、ここ何日かわざわざ寄ってくるから気になって」

「そうなんだ。いつもと違うと気になるね。じゃあ今日これからでもいいかな」

「うん。いいよ」


 帰宅してから十分も経たないうちにさっちゃんは来た。自転車で五分もかからない距離だから早い。


「実はさ。一ヶ月ぐらい前から、これをやってて」


 さっちゃんのスマホを見せられる。

「今日のお言葉」と書いてある下におみくじと書かれた箱がある。箱にはスタート、ストップとあった。

 それから保存してある言葉を見せられた。

「宿題は自分でやろうよ!」「ちゃんと謝ろうよ!」「朝ごはんは食べようよ!」などの言葉がたくさん並んでいる。


「これ何?」

「このスタートを押すと箱が振られる演出があってストップを押すとおみくじが出て 今日のお言葉が現れるの。それでね、一週間前にこれが出て……」


 見ると「おいで」とだけあった。他のおみくじと雰囲気が違う。

 

「それで次の日も同じで。一週間前から今日までこれしか出ないから、なんか気味悪くてさ。どうしたらいいと思う?」


 確かに「おいで」が並んで気持ち悪い。それに、いつもと違いぴったりくっついている二匹の猫も気になる。


「お言葉を削除しちゃったほうがいいんじゃない? それと明日からもうおみくじをやらないようにしてさ」

「やらないほうがいいかな」

「うん。そのほうがいいと思うよ」

「そうするね」


 翌朝、登校途中さっちゃんからメッセージが来たので見ると「やっちゃった」

 何度メッセージを送ってもさっちゃんの返信はなく、学校に来なかった。先生に話を聞かれたので昨日の話をしたが、相手にされなかった。

 気になったのでさっちゃんがやっていたおみくじをやってみる。スタートを押し箱が振られるの見ながら、祈るようにストップを押す。

 出てきた言葉は「探しても無駄だよ」

 家に帰ると猫たちはキャットツリーとソファーからちょっと顔を向けただけだった。

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