【三題噺 #59】「マット」「ショート」「背後」(1088文字)
お姉ちゃんの居場所
高校三年生になったお姉ちゃんがお母さんと言い争うことが多くなった。
お姉ちゃんが関西を通り越して東京の大学へ行きたいと言っているからだ。私は以前からそれっぽいことを聞いていたが、いきなり聞いたお母さんは受け入れられないようだった。
お父さんがお姉ちゃんのやりたいようにと言ったので、お姉ちゃんは東京の大学を受験、合格し家を出て行った。
お姉ちゃんがいなくなった家はなんとなく居心地が悪い。
テーブルのプレースマットが四枚から三枚になった。四枚の時には感じなかったバランスの悪さを感じてしまう。
お母さんがたまに買ってくるケーキが三つから二つになった。三つ、今は二つなのはお父さんがケーキを食べないからだ。
お母さんはパティスリーの期間限定季節のケーキを三つ買ってきていた。季節のケーキがない時は、お母さんはチーズケーキ、お姉ちゃんはいちごショートケーキ、私はチョコケーキ。でも買ってくるケーキが二つになってからは、いちごのショートケーキが二つだ。ここのケーキは美味しいがいちごのショートケーキを食べると微妙な気持ちになってしまう。
姉ちゃんとはメッセージのやり取りをしているし、たまに電話もしている。お姉ちゃんは一人暮らしは大変だと言っている。
「家のこと全部自分でやんなきゃいけないし、勉強も難しいし、毎日大変だよ」
でも私には『毎日楽しくて仕方ない』って聞こえる。
卒業式を終えたお姉ちゃんがいなくなった。
お父さんもお母さんも会社を休んで東京へ行った。
大学の人や友達やサークルの人たちに話を聞いても、みんないなくなるような心当たりはないと言っているらしい。サークルの人が知り合いに声をかけてお姉ちゃんの動画や映像を集めてくれた。それを見ると卒業式前のサークルの集まりでのお姉ちゃんはとても楽しそうで、思いつめた様子など全然見えなかった。悩みがあるのを無理にはしゃいでいるようにも見えなかった。
私も休みの日にお母さんに連れられて東京へ行った。
お姉ちゃんのアパートは、一度泊まりに来た時と変わりないように見えた。実家と同じ物の少ない部屋だった。
部屋にあった雑誌をペラペラとめくっていると、背後にお姉ちゃんがいるような感じがした。お姉ちゃんからは悲しみとか怒りとか苦しみとか、そういう感情を感じられなかった。楽しいとかワクワクするとかそんな感じを受けた。
どうしてお姉ちゃんが連絡をしないのか分からないが、お姉ちゃんが元気でやっているということは感じられた。でもこれをお父さんとお母さんに説明しても信じてもらえないだろう。
お姉ちゃん、私の背後ではなくお父さんとお母さんの夢の中に出て安心させてあげて。
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