【三題噺 #61】「価値」「アナウンサー」「ライト」(595文字)

陶芸家と鑑定人

 テレビをつけて二十分くらいで見たかったものが出てきた。

「はい、この大皿は田中川先生の作った大皿に間違いありません。代々の畑を売ったお金で買っただけの価値はあります。この大皿はぜひ家宝としてください」


 大皿を鑑定していた男が依頼人の年寄りに伝えている。それを聞いてアシスタント の女性アナウンサーが声をかける。


「すごいですね。田中川先生といえば三年前にお亡くなりになってしまいましたが、 日本国内の美術館や博物館だけではなく海外でも展示されている陶芸家ですよね。そんな大皿が自宅で鑑賞できるなんて素晴らしいです」


 僕はテレビを消した。

 田中川先生は美術館で鑑賞してもらうことなんて望んでいなかった。先生が大皿を作るのは『作った大皿にたくさん食べ物を盛って、みんなで楽しく食べてほしい』という願いからだ。楽しく食べればみんな仲良くなれるというのが先生の口癖だった。

 美術館でライトを浴びて大皿が飾られるのを望んでいたわけではない。

 大皿を買った人は先生の思いを知っているはずなのに、「割れたらもったいなくて食事には使えない」と言っている。


 テレビに映っていた大皿を思い出す。あれは田中川先生が作った大皿で間違いない。あの鑑定した男は胡散臭そうに見えるが目は確かみたいだ。でも先生の思いは分かっていない。先生は大皿が使われ、割れることを望んでいた。

 美術館や博物館で展示されている大皿の半分近くは僕が作ったものだ。 

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