【三題噺 #58】「まぶた」「桜」「ロッカー」(727文字)
日本人形はどこ
会社で一番仲良くしている同僚が出店するというので、フリーマーケットへ行った。
お客さんはいなかったが私と話しているうちに釣られたのかぼちぼち来るようになったので、私は他の店を回ることにした。いろいろなものを売っていたが特に買う気になったものはないので、ただうろうろ歩いていた。
日本人形が目に止まった。着物の模様が満開の桜でとても綺麗だった。着物は……。
人形はまぶたを閉じていた。
おままごとに使う人形で寝かせるとまぶたを閉じ、起こすと開ける作りのものがあるが、この日本人形は立ててあるのにまぶたを閉じている。
まぶたを閉じているのに私をじっと見つめている感じがする。暖かい日だったのに寒気がした。
「ねえ、何買ったの」
「え、何って」
「その紙袋の中身よ」
いつのまにか私は紙袋を持って同僚のところに戻ってきていた。彼女に紙袋を渡す。
「へえー、日本人形なんて買ったの。桜模様の着物が素敵ね。桜は散っちゃったけど、これならいつでも見られるわね」
紙袋にはあの日本人形が入っているらしい。私が買ったの? なぜ?
同僚と別れてこの日本人形の扱いに悩みながら駅へ向かう。
人形を捨てるというのは抵抗がある。でもこれを家に持ち帰るというのはもっと抵抗があるので、コインロッカーに預けることにした。引き取りに行かなければ管理者が廃棄してくれる。
人形を入れてお金を入れる。気持ちを軽くして家へ帰り、人形のことはきれいに忘れた。
☆ ☆ ☆
会社に着くとまず制服に着替えるために更衣室へ行く。電気をつけて中へ入ると桜の花びらが散らばっていた。私のロッカーの前を中心に散らばっていた。
もう桜はとっくに散ってしまっているのに。
フリーマーケットへ行ってから何日経った?
ロッカーの中は私が入れた物だけだよね?
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