第5話 魔族の娘

「それじゃあアタシはここまでね」

 魔女ジャック・オー・ランタンはウインクする。

 餞別にと僕に闇のマントというアイテムと自分がかぶっていたつば広の魔女帽を授けてくれた。闇のマントは吸血鬼が苦手とする太陽の光の影響を防いでくれるという。魔女の帽子は魔力をさらに上昇させてくれるという。


「ありがとうございます。わかりました、僕はこれから一人で旅に出ます」

 魔女と別れるのは寂しいが、それは仕方がない。いつまでも魔女に頼りっぱなしではいけない。


「うふっ良い子ね。アタシはずっとあなたを見ているからね。あなたの物語じんせいをたのしませてちょうだいね」

 そういうと魔女は一瞬にして消えてしまった。



 僕は一人で旅に出た。

 旅の途中、人間に襲われたいくつかの魔族の集落を救った。

 人間が魔族や魔物に対して、なんの感情も抱かず、むしろ憎しみをもって虐殺する様子を旅の中で何度もみた。だから、僕は人間に対して憎悪をもって報いることにした。

元人間であるという記憶も感覚もすでになくなっていた。


「リン様、聖霊都市で魔族の娘が絞首刑にかけられるそううです」

 そういうのは僕が助けた魔族の一人で、部下になったシオンという男だ。彼のように僕をしたい、何人かの部下かできていた。


「わかった」

 僕はその聖霊都市スターレインに部下と共に向かった。

 魔族であるシオンたちは聖霊都市には入れないようなので、外で待機させた。聖霊都市を守る結界でも僕を阻むことことはできないようで、一人だけで潜入した。

  

 街の広場で一人の女性が縄でしばられ、連行されていた。

 彼女が向かう先はには絞首刑場であった。

 見せしめのため、木製の台の上に置かれていた。

兵士の一人に引っ張られ、その魔族の女性が処刑台に登らされる。

「悪魔の子は死によってのみ、その罪が償われるのです。我々は彼らを救わなくてはいけないのです。これは神が認められた聖なる行いなのです!!」

処刑台で神官服を着た男が大声で叫ぶ。

奴は僕の村を襲った神官グリフだ。

そしてその今にも絞首刑にされそうになっている女性を見て、僕は驚愕した。

生前、誰にでも優しく接していたあの下村しもむら彩花さやかそっくりだったのだ。


僕は絞首刑台のところに飛んでいく。

群がる兵士たちに死を持って償わせる。

「おのれ、悪魔の子め!!」

鋼鉄の槍を持ち、神官グリフが突進してくる。

僕の目にはその動きがあまりにも緩慢に見えた。あの村ではどうやっても敵わないと思ったが、今は真逆だ。

僕はその槍をつかむと真っ二つに折る。

二つになった槍をグリフの頭と胸に突き刺す。

続いて喉笛に噛みつく。

グリフの血を飲み込む。

吸血鬼ヴァンパイアとなった僕には人間の血は何よりの栄養源でありご馳走だ。

僕は集まってきた聖霊都市の神官兵をすべてなぶり殺しにした。

さすがに血を飲み過ぎたかな。

満腹だ。


レベルは120にまで上がった。

特技スキルに回復魔法、体力自動回復強、槍術、千里眼、奇襲無効を獲得した。

職業クラス吸血鬼の君主ヴァンパイアロードとなっていた。


「立てるか」

僕は下村彩花そっくりの魔族の女性に手をさしのべる。

「ありがとうございます、魔王様……」

彼女は僕の手をつかむと抱きついた。

「魔王様、どうか私たちを救ってください」

泣きながら、彼女はそう懇願した。


その魔族の女性は名をサーヤと言った。

彼女は僕のことを魔王と呼んだ。良いだろう、魔王というものになってやろう。

そして人間を支配してやるのだ。奴らは見た目だけで僕たちを生きることすら許さないと言うような奴らだ。

そんな奴らは支配して、死んだ方がましという目に合わせてやろう。

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