第3話強制レベルアップ

 招き入れられた僕は、ジャック・オー・ランタンを名乗る魔女の前に歩み寄る。

「さあ、こいつを飲みな」

 すっと黒髪の美しい魔女はスキットルを僕に差し出す。


 僕はそれを受け取り、飲み口に口をつける。

「さあさあ、ぐいっとやりな」

 ジャック・オー・ランタンのすすめる通りに僕はスキットルの中身を喉に流し込む。

 焼けるような熱さが喉を駆け抜け、さらに胃に激痛が走る。立っていられなくなった僕は腹部をおさえ、しゃがみこむ。

 その痛みに耐えられなくなった僕は意識を失った。



 目を覚ますと間近に魔女の綺麗な顔があった。大きな黒い瞳で僕を見ている。

 あれっ視界がおかしい。

 なんかVRゲームのような画面だ。

 魔女の顔の横に数字と棒グラフが二つある。

 その数字は999と書かれている。

 もしかして数字がレベルで棒グラフはステータスバーなのか。

「ご名答よ」

 にこりと魔女ジャック・オー・ランタンは微笑む。

 試しに自分の手のひらを見ると同じような数字とバーが見えた。魔女よりはぜんぜんステータスは低い。

 レベルは12で職業クラス小さき戦鬼ゴブリンファイターと書かれている。

 そう言えば目覚めたら、あの激痛がどこかに消えている。

 それに腕の筋肉がかなりついている。

 まるで別人になったようだ。


「ほら見てみな」

 魔女が僕に手鏡をわたす。

 その手鏡で自分の顔を見るとやはり別人になっていた。かなりいかつい鬼のような顔立ちになっている。


「ほら、もっとステータスを確認してみな」

 魔女の言う通りに意識を集中すると視界のはしにスキル欄が表示される。その文字をクリックすることを想像する。


 特技スキル 鑑定、短刀術、魔女の加護、言語理解、体力自動回復弱とある。


「さあ、さっそくレベルアップするよ」

 魔女は僕にナイフと着替えを渡す。

 僕はその服に着替え、ナイフをベルトに革ひもでぶら下げる。



 僕は魔女に連れられ、人間の街に向かう。

 人間の街に来るのは生まれて初めてだ。

 怪物の僕が街を歩いていても誰も気にしない。

「どうして?」

 僕は魔女に訊いた。

 魔女にもらった特技スキルのおかげで人間の言葉が話せるようになっていた。


「ふふん、認識疎外の魔法を使っているからね。回りには普通の人間の男女にみえてるのさ」

 深い胸の谷間からスキットルを取り出すとまた、中身をぐびりとのんだ。


 道を歩いていると僕は一人の男が前方から歩いてくるのを視認した。

 こいつの顔は覚えている。

 僕たちの血を汚いと言っていたあの剣士だ。

 鑑定の特技スキルで相手のステータスを見る。

 剣士ゴードン レベルは52となっている。

 ステータスは僕よりも倍以上高い。

 はっきり言って格上の相手だ。


 剣士ゴードンが僕たちの前方二メートルまで来たとき、魔女は指をパチンとならした。

 周囲の景色が灰色に染まっていく。

「魔術で閉鎖空間を作ったよ。ここにいるのはあいつとアタシらだけだ。ほら、仲間の仇をうってきな」

 ポンと魔女は僕の背をたたく。

 不思議と勇気が沸いてきて、心から恐怖が消える。

 僕はナイフを鞘から抜き、前進する。


「なんだ、てめえは!!」

 怒声を発し、剣士ゴードンが剣の柄に手を伸ばす。しかし、その動きは亀のように鈍い。

 どうやら魔女が魔法で奴の動きを緩慢にしているようだ。

 剣士ゴードンの動きは笑えるほど遅い。

 だが、意識だけははっきりしているようだ。

 僕はゴードンの喉元にナイフを突き立てる。

 奴は首から血を吹き出しながら、僕をにらむ。

 剣士ゴードンがやっと剣の柄に手をかけたときには僕はさらに心臓と脇腹にナイフを突き刺していた。

 三ケ所から血を流し、ゴードンは絶命した。


 自分のステータスがみるみる上がっていく。

 レベルは50になり、職業クラス鬼騎士オーガナイトになっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る