第2話焼き討ち
はっきり言って、ゴブリンに転生してしまったのはかなりのショックだった。
どうせならイケメンの勇者なんかに転生して、チート無双したかった。
でもこの緑色の小さな体ではそれは絶対に不可能だった。
早々にそんな夢物語はあきらめて、ゴブリン村での生活に順応するように努力した。
もともと手先が器用だったので村で使う農機具や狩猟用具を修理してあげると、むちゃくちゃ感謝された。僕が見るかぎり、彼らは不器用であった。
小屋と呼ぶにはあまりにもお粗末な所に住み、料理などもほとんどただ焼いただけのものが主流であった。
だから僕はその小屋をできるだけ丈夫な素材で作り、料理には岩塩などを使うようにした。
すると僕はゴブリン村長のお気に入りになり、村での地位もかなり良いものになった。
生活は貧しいが、それなりに充実したものだった。それになりより、彼らは人を見た目で判断しない。当たり前だけど、外見が皆ほとんど同じだからだ。もしかすると美醜という概念が存在しないかもしれない。
そんな貧しくも平和な生活が突如、終わりを告げた。
人間の冒険者のパーティーが襲撃してきたのだ。
彼らは火炎魔法でゴブリン村の家々を焼いていく。
ゴブリンたちは手に手に武器をもって応戦するも無惨に殺されていく。
「ちっ汚ねえ魔物の血が着いちまったじゃないか」
鎧についた血を見て、剣士が悪態をつく。
ムシャクシャした彼はゴブリン一体を袈裟斬りにする。
「彼らは生まれながらの邪悪なのです。死によってのみその魂は救われるのです」
神官服を着た男が槍を振り回し、数体のゴブリンを虐殺する。
「あははっ燃えろ燃えろ!!」
楽しげに魔法使いの女が笑い、周囲を火炎魔法で燃やしていく。すべてが木材でできている建物なので、簡単に消し炭となっていく。数体のゴブリンもまきこまれ、焼死する。
それは一方的な暴力であり、虐殺であった。
このままここにいては殺されると思った僕は、逃げることを決意した。
村長が僕をかばい、ひときわ豪華な鎧を装備した騎士に切られた。
僕はやつの顔を見た。
その視線は生前によく向けられたものだ。
人を蔑む目だ。
ごみを見る、感情のこもっていない瞳だ。
村長は瀕死の重体でナイフを持ち、その騎士に飛びかかる。
騎士は面倒くさそうに村長を斬殺した。
僕はその隙をついて村から逃げ出した。
到底かなわない。悔しいが、村長の行為を無駄にはできない。
僕は疲労でふらつく足を引きずりながら、行くあてもなく逃げた。
闇夜のなか、逃げていくと一軒の小屋を見つけた。うっすらと灯りがついている。
僕はその小屋の扉をゆっくりと開ける。
小屋の中には背の高い女性が椅子に座っていた。スキットル片手に本を読んでいる。
スキットルの中身をひとくち飲み、僕を見る。
「あらあら、哀れな小鬼が魔女の家に迷い込んできたようだね。魂の色がかなり珍しいねえ」
ふふっと黒髪の女性は目を細めて、僕に微笑みかける。
その女性はとびっきりの美女だった。そのスタイルはとても豊かで、魅力的であった。
黒髪の美女は手招きする。
僕はその手招きに応じ、小屋の中に入る。
「アタシは夢幻の魔女ジャック・オー・ランタンさ。ちょうど暇をもてあましていたんだよ。お前の願い叶えてやろうじゃないか」
ハスキーボイスで魔女ジャック・オー・ランタンは僕にそう言った。
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