恥の多い青春を送ってきました

高山小石

若かったな……

 二十歳前後の頃、うっかり体の関係になった相手が既婚者だったことがある。


「気づけよ!」


 と今の私も思うが、既婚かどうかは自己申告制で、相手がうまく隠していれば、気づきようがない。


 偶然知ってすぐ、素直に別れようと思った。


 なにしろこっちはピチピチの二十歳前後。あとから知ったが、相手はひと回り年上だ。

 結婚するにはまだ早いながら、将来の伴侶を探しているのだ。火遊びするつもりはない。


 しかし相手は「まぁいいじゃないか」と、のらりくらりと引き伸ばす。

 会わなければいいのだが、なにかと顔を合わす相手で、なにより気持ち良かった。

 

 そう。

 意識が飛ぶレベルで気持ち良かったのである。


 本人努力による技術の高さ、ブツの良さ、相性もあったのかもしれない。


 当時は「結婚していても私のことを好きだと思ってくれているのかな」という、「選ばれて嬉しい」「私は特別なんだ」という気持ちもあったように思う。


 そのときの私は「体の関係を持つのは好かれているからだ」と思っていたので。


 しかし、どうやら相手には本命(嫁にあらず)がいると、相手本人の口から聞く機会があり、私から相手への恋愛感情はきれいサッパリなくなった。


 そのあとも関係は続いたものの、不思議なことに、気持ち良さが減っていた。


 おかげさまで未練なくフェードアウトできたので、本命様には感謝している。

(「貴重な体験をありがとう」という意味では相手にも大変感謝している)


 ちなみにその後、友達の親や、自分の親の浮気話を聞いて思ったのは、

「浮気相手というのは、生活をともにしないでいいとこ取りできるんだから、さぞ良く見えるだろうな」である。


 もし今のパートナーが浮気するのであれば「浮気と言わず、正式に離婚してすっかりそっちで暮らしてほしい」。


 青い鳥を探すのはけっこうだが、巻き込まないでいただきたいのだ。


 そう考えるようになった自分に、年を感じた。



  ☆以下いらない追記☆



 純情な腐女子だった自分は、年相応にエッチなことに興味はあっても、男女交際をしたいと思ったことはなかった。


 すごく好きだった中学校のクラスメイトは同性だったし、高校で構い倒してウザがられるのすら嬉しかったクラスメイトも同性だった。


 一目で「仲良くなりたいっ」とドキドキして声をかける相手は、いつだって同性。


 気になる異性がいないではないが、それ以上に「好き!」と感じるのが女子なのだ。


 今ほどネットが普及していなかった時代なので、ふわっと「いつか気の合う女友達とルームシェアして暮らせたらいいな」と思っていた。


 そんなポンコツな自分は、ほぼ男子校な大学で、毎日男子と会話する環境になっても、恋愛する感覚はなくて、「楽園男子ばかり異物女子が入り込んですみません」な気持ちでいた。

 

 普通の共学校なら会話すらできなかっただろうに、その学校では数少ない女子に親切な男子が多くて、会話してもらえる。

 気の良いグループに入れてもらえ、四年間平和に過ごせたことには、感謝しかない。


 まだ二次元の知識しかない自分に、見知らぬ同級生から「とりあえずヤらして!」と言われたことがある。


 なに言ってんだ初対面で!


 と当時は思ったが、今ならわかる。

 その見知らぬ彼は、私を好きとかではなく、童貞を卒業したかっただけなのだ。


 クラスメイト(男子)にいきなり乳を揉まれ「まだ固いな」と言われたこともある。

 その経験豊富なクラスメイト(男)いわく、乳はもまれると脂肪?がくずれてやわらかくなるらしい。


 廊下では避妊具が風船のように膨らまされることもあった。


 たまに「愛とはお金で買えるか」「浮気を正直に話すのと嘘でごまかすのと、どちらが愛ある行動か」などを真剣に不真面目に議論したりもした。


 女子校も楽しかったけどマウントの取り合いになりがちだったので、ほぼほぼ男子校で男友達扱いされるのはすごくラクに感じた。

(実際は女子だから気を使ってもらっていたのだと今はわかる)


 穏やかな関係にようやく、「男女交際もいいかもしれない」と思えるようになってきたころ。


 たまたま知り合った年上の彼と初めて関係をもち、幸せでふわふわしていたであろう翌日に、別の年上の相手から「一度でいいから」と関係を迫られた。


 さて。

 この「一度」が本当に一回で終わるわけが無いと、皆様も予想できるだろう。

 私もそう予想して断り続けるも、相手は折れない。

 なぜなら童貞を卒業できるチャンスが目の前にあるからだ。

 向こうからすれば「すでに体験済みなんだったら一回くらいいいだろ」という理屈である。


 こちらはまったく良ろしくない。

 私は好きな相手とだけシたいのだ。


 しかし私には長年にわたって「年上男性の言うことはきくべき」みたいなすりこみがなされていたのと、どう言っても折れてくれない相手にめんどくさくなって、結局、私が折れてしまった。


(未来ある女子の方々は相手が誰であれ「笑えない冗談はもういいって」とか笑い飛ばして、さっさとその場から逃げてください)


 避妊具無しでまさかのアオカン。

 ない。マジでない。

 人によったら自殺案件である。


(避妊具なしは、結婚したり育てたりする気がないなら、切実にやめていただきたい)


 とにかくその場は切り抜けたと思ったが、当然のように相手は言ってくるわけだ。「一回ヤッたんだから次もいいだろ」と。


 いいわけがない!


(賢明な皆様は、ぜひそんな相手から距離をとり、信頼できる友達と離れず一人きりにならないといいかもしれません)


 しかし当時まだ純情だった自分は、「一回裏切ってしまったからもう元には戻れないんだ」と思い込み、『純情』から『私がハンター』へと無理やり意識を路線変更したのである。


(ぶっちゃけ一回だけだし、言わなきゃわかんないんだし、むしろ彼に打ち明けてお清めエッチなり、牽制なりしてもらえば良かったのでは、と今なら思う)


 路線変更したからといって、さっそくクラスメイトを食い散らかしたりはしなかった。

 そんなコミュ力はないし、ビッチになりたいわけじゃない。


 おそらく当時の自分は、体をつなげることを「なんでもないこと」だと思い込みたかったのだ。

 そうすれば、好きでもない相手と定期的に関係するのを「よくあること」だと思い込めるから。


 呼び間違えたら困るので行為中に相手の名前を呼ばなくなった。

 相手が誰か認識したくないので、行為中は目を閉じるようにした。


 一回だけの相手は、そのうち自分のことを好きだと言い出した。


 『好き』ってなんだ?


 たしか漫画『東京大学物語』でも、さんざんヤッたあとで、主人公が「君のことが好きかもしれない」みたいなセリフを言っていた。


 私には「都合の良い存在として『好き』」なようにしか思えなかったけど、作者様や男性読者は違うメッセージや受け取り方をしていたのかもしれない。


 『好き』が迷子状態で、私の初めての相手とは申し訳なさから別れ、一回だけの相手との関係はずるずる続いた。


 付き合っているわけではなかったので、並行して、誘われるまま、親友の彼氏や大学の後輩と関係した。


 その途中で、前述した既婚者とうっかり関係を持ったのである。


 調子に乗っていた訳では無いが、案の定というか、学生中に望まぬ妊娠をしてしまった。

 避妊具を使わず致したからだ。


「結婚するから堕ろしてほしい」


 最低なプロポーズだと思った。

 責任をとる姿勢は誠意があるのだろうが、そもそも、避妊具を使ってくれれば良かったのだ。


 「避妊具がないならしない」を徹底してくれるだけで良かったのに。

 それもこれも、拒否しきれなかった私が悪いと言われるのだ。


 将来的に結婚して、お互いわだかまりなくやっていけるかわからないまま、一回だけの相手と正式に付き合う流れになった。


 会社に務めだして、気になる先輩ができた。笑いのツボが面白いのだ。


 飲み会で終電がなくなり、朝までやり過ごすためだけに一緒にホテルに泊まった機会に、先輩にざっくり自分の状況を話したところ、「まるで小説みたいだね」と返された。


 なるほど。当事者である自分や女子的には微妙過ぎる話だが、小説としてなら楽しめるかもしれない。

 少なくとも男性にはウケそうだ。


 今まで全体像を把握していたのは私と既婚者だけで、実際に既婚者から「うらやましい」と言われていたので(おそらく複数の相手がいる部分が)。

 

 私は、その夜、先輩をベッドに誘ったが、「おつきあいをしている関係があるなら、付き合えない」ときっぱりと断わられた。


 そういう風に断れば良かったのか!

 当たり前のことに気がついた。

「いつもどこかで『求められることを断わってはいけない』と思い込んでいたけど、断っても良かったんだ」


 ここでようやく一回限りの相手との関係を終わらせられた。


 その後、立場的にとてもお断りできなかった高齢の既婚者、押しまくってなんとか相手してもらった会社の先輩、以前からの後輩や既婚者とちゃらんぽらんと過ごしていたら、中学生の時から好きだった彼女が結婚するという。


 私もすぐに結婚しなくては、話が合わなくなってしまう!


 危機感をもった私は、あらためて結婚相手を考えた。


 今でこそ同性婚もできるが、当時の主流は異性婚。

 そもそも私自身、異性関係にかまけていて、ルームシェアできるほど仲の良い同性がいない。

 

 異性と結婚するのが無難だろう。


 もう一人、自分の事情を話していた相手がいて、その彼は話を聞いて涙を流した。


 この人は優しい人なんだ!


 そう思った私はその彼と結婚したのだけど――。



………

 とまぁ、恥の多いというか、まったくほめられない青春を過ごしてきたわけでした。


 自分のことだから、いま振り返ると「バカだなー」としか思えないけど、ドン引き内容だったらごめんなさい。


 前述部分が一番キラキラしていたので、ピックアップしてみました。

 結婚しても自分だけをみてくれなさそうなあたり、結婚したくはないけど、にくめない人でした。


 私と同じではないかもですが、「年上の男性には逆らうな」という躾を受けてきた女性が一定数はいると思うのですよ。


 だから他人様でもある年上男性に逆らうにはかなりガッツがいる。というか、逆らえない、みたいな。


 世の中、まともな年上男性ばかりじゃないので、少なくとも、尊厳を守れるようにノーが言えて、ためらわず逃げるでもいいし、切り返してもいいし。


 とにかく身を守れる自分になりたいものです。

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恥の多い青春を送ってきました 高山小石 @takayama_koishi

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