第三話 ランドマーク

 それでも、遅まきながら、建物が全貌を現してきた。

 治療院の壁には、自然石による巨大なひまわりのモザイク画、中心部の花芯は明り取りになっている。

 玄関とアプローチにも自然石が埋め込まれている。河原でみかける、丸い小石のほか、山の中にあるゴツゴツした石も使われている。

 施主として仕事ぶりを監視していると

「ちょっと、足らんなあ」

 と、棟梁がどこかへ石を調達に行ったこともあった。


 庭に土管がおっ立てられた。

 雨水を溜め、庭木や花の水やり、洗車に有効利用しようというものだ。

 弟子と称する女性が現れ、土管に赤・青・黄で楽しそうにペイントを始めた。いやがうえにも目立つ。

「ランドマークになるで」

 棟梁は自信満々だった。


 玄関に向かう。

「これは、だまし絵になっとるんじゃ」

 棟梁が指さした方を見ると、アプローチがどこまでも続いている感じがする。白い壁に縦・横・斜めの線を引いただけで、無限の奥行きを演出している。マジックだ。


 建物内部に入る。

 玄関の郵便受けはどこかで拾ったものか、金属製のボールが使われている。

「物は大事にせんとあかん」という棟梁にとって、廃品利用も重要なコンセプトのひとつだ。

 そして、郵便受けにはやはり赤・青・黄のペインティング。洗面所の棚、トイレの洗面台も三色のペインティングが施されている。


 三原色といえばモンドリアン(Pieter Cornelis Mondriaan 1872―1944)のコンポジッションが有名である。しかし、棟梁はモンドリアンなど意識することなく、廃材に色を塗り、子供と遊んでいるうちに行きついた境地だった。


 ともあれ、玄関の壁には明り取りに、カラーのガラス玉が2個はめ込まれている。

 吹き抜けになったリビングの壁には、色とりどりのガラス玉。その間を、天井に向かって、細長い、三角形のオブジェが伸びる。


「あれが北斗七星や。あれが銀河鉄道や」

 確かに、ガラス玉は7つある。外から幻想的な、七色の光が差し込む。彼方から、SL(蒸気機関車)の汽笛が聞こえてきそうな気配さえある。


 なおも、棟梁のガイドは続く。

 治療院のドアには、明り取りに2つの透明のガラス玉がはめ込まれている。

「下が過去や。上が未来や」

 棟梁の思いのたけが込められている。時間が掛かったわけだ。


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