第四話 祝!完成
「それはそうと、年内に入れるの?」
それが、最大の問題だった。
「無理やなあ」
棟梁はあくまでも、冷静かつ客観的だった。
翌年の遅くない時期に完成はするだろう。しかし、1年近く、妻と娘は狭いアパートで、ムカデやゴキブリ、天井裏のネズミ、それを付け狙う青大将らと生活を共にしてきた。
往診の帰り、酒屋の女主人が大きなヘビを見た、と顔をしかめていた。
よそ事と思っていたところ、娘から「私の足の太さくらいあるヘビが床下に入って行った」と報告があった。
ヘビなどは見なかったことにすればよい。ムカデの場合は大小にかかわらず、実害を及ぼすから厄介だ。
アパートで寝ていて、足の裏がくすぐったいので片方の足で払ったところ、激痛が頭のてっぺんまで走った。見ると、小さなムカデだった。
「正月は新居で迎えたかったなあ」
私がため息をついていると、棟梁は「よっしゃ」と何か決断した様子だった。
悲願がかない、暖房もない新居で震えながら、一家は新年を迎えることができた。もっとも、年が明け、妻と娘はアパートに寝に帰ったが。
不思議な宇宙空間に移り住んで3年。埼玉の方に区切りが付き、私は完全に徳島県人に戻った。
遠距離通勤がこたえたのか、目の症状が進んだ。盲導犬を申請し、翌年6月、大阪の盲導犬訓練所で宿泊訓練に入った。
毎朝、トイレをさせた後、台に上げてブラッシングをする。日課なので、ブラッシングの台はしっかりしたものが欲しかった。
写メを棟梁に送っておいたところ、訓練所から帰るとすぐ、やってきた。盲導犬の体長を測り、次回には立派な台を設置してくれた。
やはり、棟梁の仕事だった。意表を突いた。1枚の厚い板と2本の角材を使い、
値段をたずねると
「ええよ。また寄るわ」
棟梁は軽トラに道具を積み込み、山の家に帰って行った。
その後、モノづくりを教える学校を作り、忙しいのか我が家には顔を見せていない。
農夫が季節の野菜を届けてくれるたびに、棟梁の消息を訊く。農夫も最近、会ってないみたいだ。
棟梁は、コンポジッションがお好き 山谷麻也 @mk1624
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