外伝 味見させるのは、上司に限る

弘治二年 西暦1556年 十二月 午後 場所:越後国 赤田城 屋敷

視点:松本累(斎藤朝信)Position


累「あー、退屈。なんかすることナーイ?」


 ボクは床に敷いてある茣蓙ござの上でゴロリとしながら、呟く。


タカ「いいじゃないの、暇だって。仕事にも勉強にも追われずに悠々自適。是即ち、至極なりってね」

累「それは暇を潰す物があって言えることだって~!」


タカ「ははは、テレビもねぇ!レィデオもねぇ!そもそも電気が発明されてねェ!」

累「おかげ様で、エジソンの偉大さをしみじみと感じられてるくらいだよ……」


 大熊朝秀の乱から約二カ月。

家中の官僚の大半を占める大熊派が消滅したため、

長尾家の内政状態はズタボロとなった。


 そんなこんなで年貢米の管理を終えてボクたちが領地に戻ったのは、

つい先週のことである。


タカ「することが無いなら、筋トレかナンパでもすればいいじゃない」

累「あいにく、ボクにそんな趣味は無いの」

タカ「そりゃ、残念」


累「どうせなら、兄さんみたいに何か開発とか発明とかしたいなぁ~」

タカ「何か、アイディアでもあるのか?」

累「……新潟名物って何か思いつく??」

タカ「いきなり、他力本願かよ!」


タカ「そうだな……チューリップとか?」


 そこは意外と律儀な彼、しっかりと考えを出してくれる。


累「うーん、どっちかというと富山じゃない?そもそも鑑賞用以外チューリップは、使い道なんて無いじゃない」

タカ「女の子のわりに随分と現実的じゃない。綺麗な物をもう少し愛でたって良いんじゃないの?」


累「それは……そうかもね。でも球根が手に入らないという根本的問題はどうしようもないね」

タカ「そうだな……それじゃあ、田中角〇とか?」


累「思いっきり、人じゃない!どう試作しろって言うんだい!?」

タカ「じゃあ、田中真紀〇」

累「娘に変わっただけじゃない!」


タカ「そもそも派閥なんてものがあるからいけないんです!個人個人の政治信条があれば自ずと人はついていくものなんです!そうは思いませんか?皆さん!」

累「ふふっ……似てる似てる。どっちかというと大泉〇のモノマネに近いけど」


 思わぬタカの小ネタに、つい笑いがこぼれる。


累「あーでも、戦国時代に人が知ってるわけないね。当然だけど」

タカ「さっきから否定ばかりじゃんか!そういうルイは何かないのかよ!」

累「え~ボク?そうだな……


累「笹団子とか?」

タカ「あー、いいじゃない。確かに新潟名物だ」

累「でも戦国時代こっちで作っちゃっていいのか?」


タカ「大丈夫、大丈夫。そういうのは出来てから考えよう」

累「それもそうか」


 こうしてボク達は、笹団子の試作に取り掛かった。


累「材料はコチラ!」

タカ「新鮮とれたて、見ただけでパンダもヨダレが止まらない、裏山の笹!」


 笹の鮮度は味に関係ない気がする……。


タカ「宇佐美様の知り合いが朝早くから山で取ったヨモギ!」

累「宇佐美様自身じゃないんかい!」


タカ「後は豆です」

累「いきなり雑になったな」

タカ「詳しく言うと小豆です」


 さっきまでの長ったらしい前口上は何だったの……??


累「それではさっそく小豆を煮ていきます」

タカ「砂糖は無いけど、どうすんの?」

累「それは塩で代用します」


タカ「甘くないじゃん!」

累「サトウキビを買ってきてくれるなら、妥協するけど?」

タカ「……我慢します」

累「よろしい」


 塩餡しおあんが用意出来たら、ヨモギ餅であんを包む。

ヨモギ餅を殺菌効果のある笹で包んで、紐で結んで蒸せば完成である。


累「あははは……紐結ぶの下手じゃない?」

タカ「しょうがないだろ!苦手なんだから!」


 こうして、悪戦苦闘の末に笹団子(試作品)は完成した。


タカ「さてと、早速持ってくか!」

累「食べないの?」

タカ「毒見役はいた方がいいだろう?家臣とかだと気を使われそうだし、忌憚きたんのない感想を言ってくれそうな人に食べてもらわないと」

累「確かに、そうね」



▼▼▼▼


タカ「そしてやってきたのがコチラです!デデン!」

累「って、坂戸城じゃない!」


 言わずもがな、長尾家一門衆の長尾政景と綾姫様の居城である。

政景様配下の樋口の案内で屋敷の奥へと通される。


綾「あら、アサちゃんに神藤君じゃない。久しぶり」

累「ご無沙汰してます。今日は少し食べてもらいたいモノがありまして……」

綾「あら、何かしら?アサちゃんの御手製なら何でも食べちゃうけど」

累「本当ですか、嬉しいです~」


 そう言いつつ、包みから笹団子を取り出す。


タカ「ささ、召し上がれ!」

綾「それじゃあ、頂き……

政景「お、美味そうなものあるじゃない!頂き~」


 綾様が食べようとしていた笹団子を、後から現れた政景様がかっさらう。


綾「あっ、政景様!まったく……

累「まぁまぁ、まだありますから~」


 怒り寸前の綾様をなだめつつ、笹団子を差し出す。


綾「二人はコレ、もう食べたの?」

累「え?あ、はい!」

タカ「そりゃ、もちろんですとも!」


 むろん、嘘である。


政景「う、うーむ……」


 先に食べた政景様は口をモゴモゴさせているが、微妙な反応だ。


政景「……これ、全く味がしないんだが?」

累「えっ!そうでした!?味加減失敗したかな……」

政景「餡も全く入ってねぇし……」


 政景様は、なんとも渋い顔をしている。


綾「アサちゃん……」

累「は、はい……」

綾「これ……イケるわよ!メチャクチャ美味しいじゃない!」


 え?政景様の反応と全然違うじゃん!


政景「そんな馬鹿な……ちょっと貰うぞ」

綾「はい、どーぞ」


 綾様が政景様の口に、一口サイズに千切って入れる。


政景「あ、これは美味しいわ。まだまだ食べ足りないくらいだわ」

累「気に入ってくれて何よりです!」

綾「それにしても何で、さっきのは微妙な味だったのかしら……」


 ボクも少し原因を考えてみたが、心当たりがない。


 ふと、政景様の前に視線が行って、ようやく気づいた。


累「政景様、その笹の包み。紐の結び方が緩くありませんでしたか?」

政景「そういえば、クルクルと巻いてあっただけだったが?」

累「……それ、作ったのはタカです!」


政景・綾「「あ~、なるほど」」

タカ「納得しないでください!!!!」



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