外伝 奏先輩への依頼

天文二十二年 1553年 二月下旬 午後 場所:相模国 小田原 矢神(安藤)宅


信高「安藤殿、あんどー殿は、おられる~か?」


 梅の花が咲き始める頃、真里谷信高は京四郎かいちょうの命により、安藤もとい矢神奏の家を訪れていた。


奏「あら、信高さ~ま。今日は、どういったご用件で?」


 矢神奏は、いつも白衣姿で来客を出迎える。


奏「もしかして、多目の雷舞らいぶの参加券が目当てだったり……する?」

信高「くれるんですか!?」

奏「あげないわよ」


 矢神は、すかさず返す。


信高「実は京四郎殿より、『オンドケーを作ってもらって!』と言われてまして……」

奏「温度計?これまた、妙な物を……」


 奇妙な依頼に矢神は、困惑する。


奏「まぁ、作るのは、それ程手間ではないのだけれど……」

信高「簡単に作れる物なんですか?」

奏「ガラスに水銀……アルコールでもいいか。材料は難しくないのよ」


 信高は、それとなく聞いているが全く理解していない。


奏「でもねぇ……。頼ってくれたのは嬉しいのだけれど、ワタシも安房の里見攻めの仕事で忙しいからなぁ~」


 矢神はワザとらしく、武具を鳴らす。


信高「でも安藤殿は代官ですから、出陣する必要は無いのでは?」

奏「う、うるさいわね……。兵糧の管理とか色々とあるのよ」


 矢神は、なかなか首を縦に振らない。


信高「まぁ、律殿から、『どうせ簡単に、おーけーって言わないと思うから』と手土産を持ってきております」

奏(うっ……見透かされてる……)


 信高は、入れ物ごと矢神に渡す。


信高「湯ノ花です。ぼうなす(?)として差し上げます」

奏「ほうほう……いいわね。ミョウバン作りでも挑戦しようかしら」


 矢神は、【手土産】を気に入ったようだ。


奏「二人には、『仕事もあるから気長に待ちなさい』と伝えてください」

信高「わかりました。ついでに多目様の雷舞らいぶ参加券は……?」


奏「あげません!!」



▼▼▼▼

令和XX年 西暦20XX年 場所:埼玉県さいたま市坂本宅


侑「というわけで、今回のテーマは温度計です。」

坂本「ついに導入すら、雑だな」

侑「尺が無いので」

坂本「メタすぎるな、おい!」


侑「さて、温度計ですが原型的な物は、16世紀末にガリレオ・ガリレイ[1]によって発明されたと言われています」

坂本「さすがに、ガリレイは知ってるぞ。【それでも地球は青かった】の人だろう?」

侑「……微妙に混ざってますよ、それ」


侑「その後は改良が続けられ、現代の型になったのは18世紀初頭のファーレンハイト[2]によるものです」

坂本「ファーレンハイト……。華氏かしのことか!」


侑「さすがに科学関係だと、話が早いですね」

坂本「英語だとFahrenheit(ファーレンハイト)なのに、どうやったら【華氏】になるんだか……」


侑「華氏だけに~?」

坂本「お~!」


侑・坂本「「イェーイ!」」

坂本「今日はノリノリだな」

侑「博士の反応が良かったので……」


坂本「それなら今後は、科学史だけにしてくれ」

侑「それは無理です」

坂本「oh……」



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[1]ガリレオ・ガリレイ(1564~1642):イタリアの科学者・天文学者。振り子の法則や落下の法則で知られ、望遠鏡を使っての観測でも知られる。「近代科学の父」

[2]ガブリエル・ファーレンハイト:ダンツィヒ(現ポーランド)出身のドイツ人科学者。温度計を使っての沸点や凝固の発見で知られる。華氏は彼の名前の中国訳に由来する。

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