第十二章 村上家滅亡、そして 1553年3月~

12-1 第148話  謀将たちの集い

天文二十二年 1553年 三月下旬 夜 場所:甲斐国 甲府 料理屋『富士』

視点:京四郎Position


勘助「邪魔するぞ」

京四郎「あ、勘助さん。いらっしゃい。おやおや……真田様、甲府こっちにいらしてたんですかい!」


 入り口からぞろぞろと、勘助さん達が入ってくる。


京四郎「すいませーん。今日は、そろそろ店じまいです~!」

「へーい、ご馳走さん」「おう、今日は早いねぇ~」


 一般のお客様が退出すると、入り口には早期閉店の札が掲げられる。


高坂・勘助・幸隆・甘利「「「「かんぱーい!」」」」


 四人は杯を掲げて乾杯をする。

ここ、富士屋は夜の談義をするには、もってこいの店なのだ。


甘利「松本は飲まないのか?」

京四郎「オレまで飲んじまったら、仕事にならないんで」


 さすがに、仕事中なので断る。


幸隆「昨年の青柳あおやぎの調略、見事でしたよ。高坂殿」

高坂「そんな褒められるほどのことなんて……。京四郎殿に手伝ってもらって、ようやく成し遂げただけのことです」


 自然と虎姉の視線がオレに向く。


勘助「謙遜することはねぇ。おかげで村上に対する包囲網は更に狭まった」

甘利「そういう勘助さんも聞きましたよ。塩崎城の調略に成功したって」

高坂「えっ!?そうなんですか」


 塩崎城と言えば、安曇野平定の時に選ばなかった方の城だ。

勘助さんが細工済みだったのか。


幸隆「配下に謀反を起こさせて、城主の赤沢あかざわを追いやったとか……。いやはや、恐ろしい……」

高坂「はぇー。流石ですね」

勘助「それ程でも……ある」


一同「「「「あはははははは!」」」」


 いかにも居酒屋トークって感じになって来たな。


京四郎「ざるそば二つ、お待ち~」

甘利「はいはい。あとは勘助さんと……」


妙「鴨そば、出来上がりました~」

京四郎「ありがとうございます」


 奥の厨房から妙さんの声がかかる。


幸隆「鴨そば!?これまた、美味しそうな物を……」

高坂「京四郎の店の中でも、最高級に美味なんですよ」


 ずずず~っと、虎姉は鴨そばをすする。


高坂「はぁ~、美味おいしい。そしてまた、このねぎが良いんだよなぁ~」

勘助「それ、美味うまそうだな」

高坂「あげませんからね」


 虎姉は、鋭い視線で勘助さんをにらむ。


甘利「でも、真田殿も何やらはかりごとをしているのではありませんか?」

勘助「そうだ、そうだ。こいつが何もしていない訳がない」


 ここぞとばかりに、勘助さんはヤジを飛ばす。


幸隆「実は……既に、とある人物に手を回してあります。智様にも伝えてあるので、遠からず効果が出るでしょう」

高坂「……うわ~、この人もやってますよ……。怖い怖い。私なんて謀略に関しては全然素人ですよ」


 そりゃそうだ。

ウチの店でサラリと話しているが、村上にとっては冷や汗ダラダラな話で、たまったもんじゃない。


甘利「あ、そうだ!松本!」

京四郎「はーい」

甘利「遠からず、村上攻めがあるかもしれん。また頼むぞ」

京四郎「かしこまり~」


高坂「あ、私の部隊もお願いしたいことがあります」

京四郎「何です?部隊でお揃いの衣装でも作るんですか?」

高坂「それもいいな……。って違う!火縄の調達で協力して欲しいのです」

幸隆「ああ、なるほど」


 足軽大将に昇進した虎姉は、鉄砲や弓など遠距離武器の女性部隊を率いている。

火縄は麻から作ることも出来るが、木綿の方が使い勝手がいいらしい。


幸隆「それじゃあ、そろそろ帰らせてもらおう」

甘利「えっ、もう帰るんですか!?」

高坂「もう少し飲んでいけばいいじゃないですか」


幸隆「ほら、屋敷にコレがいるから」

高坂・甘利「「あっ……///」」


勘助「幸隆あいつ、ああ見えて……嫁さんとの間に四人の息子と一人の娘がいるからな」

甘利・京四郎「「ええっ!!!」」

高坂「そりゃまた、お熱いご関係で……」


 後年、真田幸隆と正室の間には、もう一人男児が増えることになる。



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