第二十話 また後で!

「船に乗り込んで来た後、君らに依頼したあの件が今問題になっていてな。」


依頼⋯⋯? そんなもの、こいつにされた覚えがないんですが。そう思い僕は口を開きます。


「依頼って何ですか? 聞き覚えが全く無いんですが。」


「は⋯⋯、ま、まさか! 君ら何もミアから聞いていないのか?」


と、声が驚いているザンギ。聞いてない⋯? 一体どうい―――と思っていると僕の脳裏にあの時の出来事が横切る。


あ、まさか! あの時ミアとザンギが向こうで話してたことがそうなのですか⋯? と、開いてしまった口が塞がらずはくはくしていると


「まぁ良い。私から話そう。」


と、やや疲れた声色で言うザンギ。あ、はい。⋯ミアの行動は読めませんからね。と少し同情心をザンギに抱いていると


「この件は元々はヴェルバー夫妻とも関係のあるものだ。特にそこにいるだろう君は、気分を害するかもしれないがなるべく聞いてくれると有り難い。」


と、柔らかい声色で言うザンギ。その言葉に思わず目線をフィくんに向けます。すると意外と覚悟の決まった面構えで


「俺はもう大丈夫だ。なんたってこいつ等に励まされたからな。」


と、言うフィくんに僕は安心と嬉しさで胸がいっぱいになります。あぁ、本当に良かったです⋯!


「そうか、では話そう。ヴェルバー夫妻の盗んだデータも重要なものだったんだ。


それで家に残っているだろうデータを魔法を使いながら探した所、ヴェルバー夫妻以外の何者かに盗まれていることがついこないだ判明した。」


な! な、何者かに盗まれていた⋯?


「加えてもう一つの超重要データは絶対に開かないという自信たっぷりだった。それに開くと此方に知らせが来て位置も特定出来るものでな。」


と、直ぐ様少し震えた声で言うザンギ。うぅ、勿体振らずに早く言って下さい! そう思いザンギの声がする方に急かす視線を送る。


「その知らせが⋯、つい先程届いたんだ。そして位置情報だけ不明。」


「は!? そんなこと出来る奴居るの?!」


と、ライアが心底驚いている表情で言いました。え、逆に居ないんですか⋯? とそれについて詳しくないですがそう思っていると


「あぁ、残念ながら。それで君らにも危険が迫るかもしれないことと、依頼の取り消しをと思い連絡したのだが⋯。」


ぼ、僕らにも危険が迫る⋯? それって―――


「それってどういうことだ?」


と、フィくんが僕の考えを代弁したかのように聞きました。そうですよね、どんなデータがあればそんなことになるんでしょう? そう思っていると


「あぁ。まぁ今すぐかは相手の出方次第だが⋯⋯。なぁ、暴走を利用した道具の開発って知っているか?」


え、知るわけないでしょう、そんなこと。先程、暴走について知ったばかりなんですから。と、僕が悪態を付いていると


「道具の開発って何⋯? ボク知らないんだけど。」


と、ライアが言いました。え、ライアでも知らないって一体どういうことなんですか!


「そ、そんなことが本当にあるのですか⋯?」


と、ずーっと空気を読んでいたのか黙っていたハイサナさんが目を大きく開けて言いました。


「あぁ、事実だ。私たちはこれを思い付いた時に危険過ぎると判断して保管だけしておこうと決め、誰にも漏らさないようにしていた。」


ライアにさえも、漏らさずにいたものが何故盗まれてしまったんでしょうか⋯。そう僕が考え込んでいると


「暴走を利用出来るのか? それがあればミアも直ぐに助かるんじゃないのか⋯!」


と、ミアパパが目をカッと見開き言いました。え、それは―――


「待て。今、何と言った? 聞き間違いでなければ暴走を利用して助けたいと聞こえたが。」


と、言うザンギ。そ、そうでした。ザンギはミアの現状を知りません。どう言おうか考えあぐねていた所


「暴走を利用ということは君らはもしかして暴走する者と出くわしたのか⋯?」


と、自らの頭脳で答えを導き出したザンギ。え、す、凄いです⋯! と思わず驚いていると


「あ、あぁ。当たっている。」


と、ミアパパも驚いたのか目を更に見開きながら答えました。そんな中、僕はこいつ意外と頭良いんでしょうか? と悶々としていると


「それについて詳しく聞かせてくれ。今はどんな暴走も聞かせて欲しい。それしか手掛かりがなくてな。」


と真剣な声色で言うザンギ。そのザンギの真剣さに僕は驚いていました。だって、ザンギはマトモじゃないと思っていたので。と、僕が思っていると


「詳しくか⋯。それなら、リイラとフィと実際に体験した女性に聞くのが良いと思う。」


と、ライアが考え込みながら言いました。あ、そういえばライアは途中からいませんでしたね。そう思っていると


「御子息、分かりました。その三人に聞きます。それぞれの視点で聞きたいですから。


さて、元犬。君から聞こう。」


そうライアには丁寧に言うと僕にはまた犬と言いました。まぁ、元なだけマシでしょうか⋯? そう思っていると


「最初から話して欲しい。君らは今からどんなに驚こうが何も話さないように。そうでないと、何も聞こえなくなるからな。」


と、真剣に話すザンギ。誰かの息を呑む音がしました。まぁ、改めて僕の目線で語れってことですよね⋯? ほぼ強制的ですが。と思いながらも渋々話すことにしました。


「あの時、僕らは正義という言葉が聞こえて――」


「あ、そこはボクが後で話すからボクが居なくなった所から言って。」


と、ライアに言われ若干戸惑いと少しの苛立ちを感じつつも口をまた渋々開きました。


「あの後、ミアは止まらず抵抗しながら進んでいました。するとミアが足を切り、腕を切り必死に抵抗し始めたんです。どうしてそこまでしたのか、今となっては少し謎ですが。


次に何故か自分の魔法は完璧だと苦しそうに笑いながら女性が叫ぶと次に気になることを述べたんです。魔法が使えないと。その後、ミアは魔法って何? と述べました。」


「ふむ。今の所はミアの言った言葉ぐらいしか気になる点がないな。」


と、考え込んで言ってるかのようなザンギ。⋯⋯魔法が使えなくなることってやっぱり暴走では普通らしいですが⋯。


それじゃあ今まで何故知らなかったんでしょう? と考えていると


「あの、一つ良いですか?」


と、ハイサナさんが考えながら言いました。え、なんでしょうか? と思いながらそちらを見ると


「何故ミア様の手足はあるのですか? それに笑いながら暴走する人なんて聞いたことがありません。」


と真剣な表情で言うハイサナさん。え、あれって一族特有のものかと思ってましたが、違うんですか⋯⋯?


それに笑いながら暴走が聞いたことがないなんて。い、一体今何が起こっているんですか⋯? そう思っていると


「は、君は誰だ? 何故そこまで詳しい?」


と、警戒した声色で言うザンギ。いや、それはあの一族だからで⋯。と思い直ぐに口を開きました。


「ハイサナさんは、暴走に詳しい一族出身なんですよ!」


「暴走に詳しい一族⋯? そんな一族があるのか。聞いたことがない。」


と、驚いた声で言うザンギ。え? だってミアパパは暴走に詳しい一族がいるって言っていましたよ。そう思い、ハイサナさんを見ると


「私どもの一族は余り知られていませんし、表に出たがらない気質でして。」


と、柔らかな声色で言うハイサナさん。そうだったんですね! それでザンギも知らないんですか。


「そうなのか。しかし、そんな一族がいると言うならぜひ協力してもらいたいものだ。


ラディオーブル厶世界のピンチとなれば目立ちたくなくても当然手伝って欲しいのだが。」


と、ハイサナさんに向けてスラスラと話すザンギ。その言葉を聞き、ハイサナさんは


「分かりました⋯。私一人でも良いですか? 一族とは疎遠になっていまして。それで良いのなら協力しましょう。」


と、考えながら言うハイサナさん。疎遠、ですか。何があったのか気になりつつも


「それで構わない。そうだ、旅をしているならついでに聞き回ってはくれないか? 暴走のことを。」


と、ついでと言わんばかりに言うザンギ。まぁ、それくらいならと僕が思っていると


「え、良いけどよ。俺ら、丁度薬草と花探しにあちこち行く予定だったし。」


と、ザンギに言うフィくん。するとザンギは


「ふむ、丁度過ぎて驚いている。だが私たちにとっては有り難い。早速、頼む。それから薬草と花について此方でも調べておこう。


御子息、私の連絡先をこいつらに教えて貰えれば有り難いのですが。」


と、此方からしてもかなり嬉しいことを言うザンギ。そしてサラッと押し付けたような気もしていると


「良いよ、それぐらい。」


と、ライアが言う。あ、良いんですね。なんて思っていると直ぐにザンギが


「有り難いです。それではこれで。」


と、言い連絡が切れた。その急ぎ具合に忙しいんだろうなと思いました。


そりゃ今は特に忙しいんでしょうね。そんな中、調べてくれるなんて⋯⋯、もしかして意外と良い奴なのでしょうか? そう考えていると


「それじゃあ今すぐ―――」


「待て。準備を怠るなとさっきも言っただろうに。」


と、言ってフィくんを止めるミアパパ。フィくん、急ぐ気持ちは分かりますがミアパパの言う通り準備を怠ったら大変な目に合いますよ。


経験した僕が言うんですから間違いありません! それにまだ薬草と花の手掛かりも教えて貰っていません。


「準備なら、此方で済ませています。」


と、言うハイサナさん。え? いつの間に⋯?


「ねぇ、準備は良いけど君らご飯どうするの?」


「「あ」」


うぅ、ライアに言われるまで全く気付きませんでした。どうしたら⋯⋯と思っていると


「里の器具とお金を使ってくれ。娘の為だ。出し惜しみはしない。」


と、言い切るミアパパ。ミアパパ、本当に良い人ですね。そう思っていると


「長⋯⋯。」


と、僕と同じ思いなのかそう言うハイサナさん。


そしていきなり現れた先程のドンラウーたち。え? 何で此処に⋯? そう思っていると


「一人ずつドンラウーを付ける。これでいつでも里に避難するも良し、休憩するも良しだ。」


と、のんびり言うミアパパ。すかさずハイサナさんが


「長、それなら器具はいらないかと。それとミア様と異世界人さんはなるべく離さなければいけませんが⋯。」


と、指摘しました。それを聞いてミアパパは少し狼狽えています。そうでした! ど、どうしましょう? と考えていると


「数時間くらい問題ないだろう⋯。」


と、向こうを向きながら言いました。まぁ、確かに最終的に思い出せば済む話ですからね。


「おっちゃん、ありがとう。それなら、これで直ぐに行けるな。お互いの安否確認も出来る!」


と、フィくんが言いドンラウーを抱えて去って行きます。あ、いつでも会えるということですね。良かったです⋯。何処か気が気じゃなかったので、安心しました。本当にミアパパには感謝ですね。


「うん、ありがとう。また後で夜に会おう。」


と、言いライアもドンラウーを抱えて去って行きます。あ、もう僕だけです! そう思い慌てて僕も


「僕からもありがとうございます。それじゃあ!」


と、ドンラウーを抱えて走りました。ふと後ろが気になり振り向くとにこやかに二人は見送ってくれていました。

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