第97話 こんな時間が続けばいいのに
「おーい、りあ~、青生くん~!」
フランクフルトとフルーツ飴に加えて、焼きとうもろこしを新たに買ってから、俺とりあ先輩は屋台が集まるエリアを出た。
すると、先に買い出しを済ませていたひなた先輩と須賀たちが手を振ってくる。どうやら、場所取りをしてくれたらしく、近くにレジャーシートが引いてある。
俺たちは軽く手を挙げてから、ひなた先輩たちの所へ向かうと――
「買い出しお疲れ……って、何か二人とも顔赤くない? 特にりあ」
「――っ」
からかうように言われた言葉に、りあ先輩が即座にひなた先輩に詰め寄る。
「ちょっと、ひなた!」
「ははん。その反応、何かあったねお二人さ~ん?」
「――っ、そ、そんなことないから!」
「そうですよ」
俺の反応につまらなそうな表情をひなた先輩は浮かべると、りあ先輩と一緒にレジャーシートの上に二人並んで座り、俺も須賀と並んで二人の後ろに腰を下ろす。
実際、りあ先輩と何もなかったと言えば嘘になる。
りあ先輩が途中で姿勢を崩してしまったとき、俺は反射的に彼女を抱き寄せた。
それからすぐに、りあ先輩と距離を取れればよかったけど、それができなかった。
薄い浴衣の布越しに伝わってくる、りあ先輩の体温と自分に比べて細い身体の感覚。
今まで女子と近い距離で触れ合ったことはあったけれど、あそこまで生々しい感覚を経験したことがなかったせいか、すぐに動くことができなかった。
きっと、りあ先輩が自分から距離を取ってくれなければ、あのまましばらく続けていたかもしれない。
本当に情けないな、俺は――
「青生、お~い青生~」
「――っ、な、何だ須賀?」
「高見沢たちが来たからよ、何買ってきたか見ようぜ」
須賀の言う通り、色々と考えているうちに高見沢さんたちも来ていたようで、すでに女子4人が買ってきたものを見ながら談笑を始めている。
「そうだな、腹も減ったし」
「おう、俺も早く何か食いてえ」
「さてはお前、祭りの前は腹をわざと空かせるタイプだな?」
「そういうお前はどうなんだよ」
「言わせんなよ」
それから互いに笑みを浮かべあってから、俺たちも女子の輪の中に入る。
焼き鳥やフライドポテトなど、俺たち以外の面々も祭りの定番といえるものをたくさん買い込んでいる。これは楽しく花火を見れそうだ――って。
「そういえば、飲み物は?」
「「「「「あっ――」」」」」
どうして気づかなかったのだろうかと、みんなで笑い合う。
何て楽しいひと時なんだろう。きっと、これが俺の求めた青春だ。
だからこそ、思う。
こんな時間が続けばいいのに。
「で、誰が買いに行くんだよ」
ひとしきり笑いが収まったところで、須賀がみんなに尋ねると、一斉に女子4人の視線が俺と須賀のほうへ向く。
うん、何となくこうなるってわかってた。
それから祭りの運営の人が、拡声器で花火が始まるまで残り5分とアナウンスを始め、俺と須賀は急いで飲み物を買いに向かうのだった。
※※※
俺と須賀が急いで人数分の飲み物を買って戻ってくると、それと同時に最初の花火が打ち上げられた。
花火自体は決して大きいものではないはずだが、打ち上げ場所と近いせいか大きさも音もかなり迫力がある。
俺たちは女子にそれぞれ飲み物を渡してから、さっきと同じように女子4人の後ろに並んで座る。
「何とか間に合ってよかったな」
「ああ。というわけで乾杯」
「おう、乾杯」
花火が打ちあがり始める中、飲み物が入ったカップをぶつけ合いお互いの努力をたたえ合うと、ちゅるるとストローで飲み物を飲む。
そして、買ってきておいたフランクフルトと焼き鳥数本を頬張っていると、須賀が「そういえばよ」と言って口を開く。
「10月に入ったら、小川さんが来てくれるんだってよ」
「おっ、それはよかったな」
「まあな、一週間だけらしいけどよ、俺たちにとっちゃありがたいぜ。それでよ――」
「コーチのことだろ?」
小川さんが帰って来るとなると、またコーチに駆り出されるかもしれない。
まあ、今回は向こうにいるときに色々とお世話になったし、頼まれたら引き受けるつもりだ。
「やるよ。俺としてもたまには身体を動かしたいしな」
「へへ、そう言ってくれると嬉しいぜ」
それから他愛のない話を須賀としながら、次々と打ちあがっていく花火を眺めていると、次第に打ち上げる間隔が短くなっていく。
もうじきフィナーレなのだろう、間髪なく打ちあがり続ける花火に、祭りに来た人たちのボルテージが最高潮に達する。
そんな中、俺はそれがもうじき訪れる約束の時へのカウントダウンのように思えて、少しだけ心が痛む。そして――
「よかったね、花火」
花火が終わり河島さんがぽつりと漏らしたその言葉に、みんなが反応を示しながら後片付けを始める。
これが終われば、あとは帰路につく人たちの波にみんなで乗って、それぞれ都合のいい場所で別れていって――
最後に、俺と高見沢さんだけが残るのだろう。
そして、そこで俺は高見沢さんに答えを告げる。
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