第77話 腐れ縁ってやつなんだろう
夏休みが始まって2週間と少しが経ち、迎えた8月中旬。
お盆の期間を迎え世間が帰省ラッシュに突入する中、俺もその例外ではなく、実家のある東京へと戻ることにした。
それにしても、多いな……
新幹線に乗るために、朝に家を出て、在来線で隣の隣街の駅まで移動すると、その構内の様子を見て思う。
駅構内にはこれまでも何回か来ていて、シーズンに関係なくそれなりに多くの利用者がいるが、今日はその次元が違う。
この調子なら、早めにホームに向かったほうがいいだろう。
時間に余裕を持って来てはいるものの、乗車と降車時の混雑を考えると、前のほうに並んでいないと座席を指定していた列車に乗れない可能性まである。
本当ならお土産でも買って帰りたかったが仕方ない。
俺は後で家族に何か言われることを覚悟して、ホームへと向かう。すると――
「げっ……日高……」
「――っ、青生!」
人で混雑するホームの中、俺と同じようにキャリーケースを持ったジャージ姿の日高と鉢合わせる。
日高の地元も俺と同じ東京だし、強豪校の青栄学院が練習を休みにするのなんてお盆くらいしかないから、日高が今日あたりに帰省することも不思議じゃない。
だけど、それにしても偶然すぎる。ということで――
「その、久しぶり……じゃあな――」
目が合い、こちらに近づいて来る日高から逃げようとするが。
「いや待てよ……っ!」
残念ながら、すぐに捕まってしまう。
「お前のことだ。どうせ10時3分のやつだろ。俺も同じやつだから、暇つぶしに話相手になれよ」
「なっ――っ!?」
何で俺がその列車だってわかんだよ。
それに、列車まで同じとか……
俺は一度心の中で大きなため息を吐いてから――
「わかったよ」
そう言って、二人で自販機の近くに並んで立つと、まずは帰省に関する話から始まり、次第に話題がサッカーに関する話題へと移っていく。
「インターハイは、残念だったな」
「ああ」
高校に入ってからは、あまりサッカーに関する情報を調べたりはしなかったのだが、一度練習試合をしたということもあり、青栄学院についてはちょくちょく試合に関する情報を追っていた。
「やっぱり強かったか?」
「強い何てもんじゃないな、東聖は次元が違う」
「そうか……」
東聖学園は、東京でサッカーをする者なら、いや高校でサッカーをする者ならほとんどが知っている名門中の名門。
そして、本来俺が行くはずだった高校だ。
「そういえばよ」
「何だ?」
「東聖のベンチにあいつがいたな」
「あいつ?」
「新藤誠二郎」
「――っ」
新藤誠二郎――それは、俺の二人いる幼馴染のうちの一人であり、中学時代に俺と二枚看板を背負ったストライカーだった。
「そうか、あいつ東聖のレギュラーなのか」
「みたいだな、俺も正直驚いた。てかお前――」
日高が何か言いかけたところで、俺たちの乗る列車がホームにもうじき来るというアナウンスがされる。
「時間だな」
「ああ、ちなみにお前、何号車だ?」
何号車か……それを聞かれて少し嫌な予感を覚えた俺は、チケットを日高に見せると――
「おっ、何だ俺の隣じゃねえか」
「うん、何かそんな気がしてたわ」
これはもう、腐れ縁ってやつなんだろう。
そう思いながら、俺たちは列車に乗り込むのだった。
※※※
列車に乗り、荷物を棚に置いてから俺たちは、並んで席に座る。ちなみに、俺が窓側で日高が通路側だ。
座ってからは、車内が静かであまり話すような雰囲気ではなかったため、俺は窓から見える景色を見ながら読書を楽しみ、日高は持ってきておいたタブレットで海外の名門クラブの試合を見ている。
そして3時間ほど時間が過ぎ、東京駅まであと一駅になったところで日高が立ち上がり、降車の準備を始める。
「東京で降りるんじゃないのか」
「ああ、こっちのほうが俺は近いんだ」
確かに在来線の乗り継ぎなどの関係で、一つ前の駅で降りた方が良いという人も少なくはない。
「それじゃ、またな」
軽く手を挙げてから、日高は出口のある通路へと移動しようすると――
「あっ、そういえば」
突然立ち止まり、日高が俺にスマートフォンの画面を向けてくる。
そこには、メッセージアプリの連絡先を交換するためのQRコードが表示されていて――
「わかったよ」
自分のスマートフォンを取り出し、俺はメッセージアプリを起動すると、提示されたQRコードを読み取る。
「おっ、来たきた」
「それじゃ、今度こそな」
「ああ、またな」
俺個人としては、あまりそう何度も会いたい相手ではないが、この調子だとまた会おうことになりそうだ。
苦笑いを浮かべながら日高を見送ると、俺のほうも降車の準備をする。
そして、数分後に終点の東京駅に到着し、降車すると、人の波に押されるようにホームから駅構内へと移動する。
さてと――
帰省ラッシュ真っ只中の駅構内は、もはや人が通る隙間などないのではないかと思えるほどにごった返していて。
これでは到底、待ち合わせていた人物など見つけることはできそうにない。そう思っていたけれど――
見つけた。
多くの人が行き交う構内にあっても、彼女は一際目立っていて、見つけるまでにそう時間は掛からなかった。
俺は彼女の下へと移動すると、彼女も俺に気づき薄く笑みを浮かべる。そして――
「久しぶり、
「うん、久しぶり、春人」
幼少期から中学卒業まで、一緒に過ごしてきた幼馴染と、半年ぶりの再開を俺は果たすのだった。
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