第75話 予期せぬ再会
終業式の日、私、高見沢玲奈は青生くんに告白した。
どうしてそんなことをしたのか振り返ってみても、告白に至った明確な理由はわからない。
ただ、想いを伝えなければという気持ちになったきっかけはわかる。
それは、うちの高校と青栄学院との練習試合の日。
私は試合で奮闘する青生くんを見て、彼が私とは違う次元にいる存在だということを再認識した。
そして同時に、しっかりと気持ちを伝えなければ、本当に手の届かないところへ行ってしまうと、そんな不安を覚えた。
それに試合が終わってからは、そんな不安に追い打ちをかけるように、真壁先輩が青生くんに好意的に接するようになった。
青生くんは、明らかに他の人よりも、真壁先輩に対して心を許している。
これでもし、真壁先輩が青生くんに気持ちを伝えたとしたら、彼は先輩のものになってしまうかもしれない――
嫌だ。
そう思った時には、もう止められなかった。
終業式の日にした打ち上げの後に、彼を近くの公園に呼び出して、好きな人がいるのか聞いた。
本当は、ちゃんと気持ちを言葉にするべきだったのだけれど、そこまでの勇気は私にはなかったし、例えそうしたとしても、今の彼が私を受け入れてくれるとは思えなかったから。
私の問いの含む意図を、彼はしっかりと受け取ってくれた。
はっきり言って、その時の表情は思い出すのも辛いくらい、驚きと悲しさを含んだもので――
そんな彼を見て、私は答えを一か月後の夏祭りの日に先延ばしした。
彼のことだから、きっと長い時間をかけて答えを考えてくれるだろうし、その中で彼の答えが変わるかもしれない。
それに、例え変わらなかったとしても、それだけ真剣に考えた上での答えなら、私もちゃんと受け入れられると思ったから。
そして、そんな告白からすでに一週間が経った現在――
情けないことに、私はいまだに彼のことで頭がいっぱいで、家事や夏休みの課題といったするべきことが何も手につかず、散らかった自室の中に引き籠る毎日を送っていた。
「こんなことなら、河島さんの誘いに乗るべきだったわ」
数日前、河島さんからプールの誘いを受けた時、青生くんが来ると知って反射的に断ってしまったけれど。
今思えば、あれは私をアピールする数少ない機会だった。
当然、私が一緒となると、青生くんが嫌がるかもしれないけれど、それでも青生くんと一緒に過ごすことで、少しでも彼に私を意識させることができたはずだ……例えばほら、水着とかで。
「って、何を考えているの私は」
寝台に大の字になって、大きくため息をつく。そして――
「やっぱり、気分転換が必要だわ」
私は、一週間ぶりに家を出た。
※※※
家を出た私は、最寄駅から隣の隣街へと向かう電車に乗った。
目的は、以前青生くんと一緒に行ったラーメンを食べに行くため。
実は彼と一緒に出掛けて以来、あの病みつきになる味をまた食べたいと思う時が何度かあったため、今回はその欲求を満たすのにちょうどいい機会だと思った。
「それにしても」
夏休みだというのに、相変わらず人が少ない。
そんな閑散とした車内を見て、以前青生くんと一緒に乗った時に、その少なさに隣に並んで座る状況を思い浮かべて焦ったことを思い出す。ちなみに、今日はあの時とは違ってリア充モードではない。
「って、また私は」
少しでも油断すると、すぐに青生くんのことを考えている。
というか、よく考えると今回の目的地もちゃんと青生くんがらみになってしまっている。
「これじゃ、何が気分転換なのかわからないわ」
そんな悪態をつきながらも、電車は目的地の方向へゆっくりと動き始める。
目的地に着くまで二時間はかかるため、私は持ってきておいた恋愛小説を鞄から取り出すと、それを読みながら時間を潰す。
そして、物語の主人公の少女と自分を重ねて物語に没頭しているうちに、目的地の駅に到着する旨を伝えるアナウンスが聞こえてくる。
私は切りの良いところで文庫本にしおりを挟むと、その場に立ち上がり、出口へと向かうと、電車が停止し扉が開くなり外へ出る。
時間は大丈夫かしら……
時計を見ると、午前十一時をちょうど回ったところ。
今から少し急いで向かえば、何とか開店前に間に合うはずだ。
そう思い速足で店に向かうと、思った通り開店前に店にたどり着くことができた。ちなみに、この真夏の暑さだというのに店の前にはすでに5、6人は並んでいる。
そして数分後に開店し、私は雪崩の押し込まれるように店内に入ると、前回青生くんと一緒に来た時と同じものを注文し、席についた。すると――
「げっ……」
隣に座った人から不可解な声が聞こえ、私は反射的に隣を向く。そして――
「げっ……」
私もまた、同じような声を漏らす。
すると、隣に座った少年は気まずそうに口を開き、告げた。
「その……互いに今日は見なかったことにしよう」
「ええ、そうね……」
私は、青生くんと以前壮絶な試合を繰り広げ、さらに私を泣かせた青栄学院の日高くんの言葉に、ゆっくりと頷くのだった。
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