第28話 二人で楽しめなきゃ意味ないからな
「本当に情けないわ」
二郎系ラーメンを食べてから約一時間後、俺たちは芝生が広がる公園のベンチに二人で並んで座っていた。
待って欲しい、言いたいことはわかる。
ショッピングはどうなった?
当然の疑問だ。
結論から言うと、空白の一時間の間にショッピングはした。
いや、ショッピングしたと言うと少し語弊があるかもしれない。
正確には、おしゃれなカフェだったり、有名なアパレルブランドの店舗が並んだ通りを通っただけ。
俺としては事前に行きたい店を何店舗かピックアップして、高見沢さんと一緒に行ってみるつもりだったけど、いかんせん日曜日ということもあって人通りが多く、高見沢さんが人混みに酔ってしまったのだ。
「本当にごめんなさい」
俺の隣でさっきから何度目になるかわからない謝罪を受ける。
「だから気にしなくてもいいって」
「で、でも……」
気にしないよう言っても、中々立ち直ってくれない。
どうしようか……っ、そうだ。
「せっかくだし、俺たちらしいことをしよう」
「えっ?」
呆然としている高見沢さんに、俺は鞄から二冊の本を取り出す。万が一、高見沢さんとの会話で間が持たなかったときのために用意したものだ。
「高見沢さん、俺たちは何部員で何委員?」
「文芸部員で、図書委員」
「なら、公園で一緒に並んで読書ってのもアリだと思わないか?」
「――っ!」
ようやく俺の意図を理解したのか、高見沢さんが少し考え込む。
「私としてはいいけれど……青生くんはいいの?」
「もちろん。俺としては二人で楽しめなきゃ意味ないからな」
「そ、そう……」
安心したように高見沢さんが頬を緩めたのを見て、俺は続ける。
「ちなみに、何か本、持ってきてる?」
「あ、あるわ!」
そう言って、高見沢さんが肩に下げたポーチから一冊の恋愛小説を取り出す。
高見沢さん、意外と恋愛小説とか読むんだ。
「――っ、ち、違ったわ!」
あっ、違ったんだ。
慌てて高見沢さんがもう一冊、今度は以前国語の授業で取り扱った純文学を取り出す。
「それじゃ、部活でやってるみたい読書を始めましょうか」
「え、ええ」
それから、俺たちは静かに読書に没頭する。
その間に、特にこれといった会話はないけど、別に気まずさとかは感じない。
むしろ、今日一番で心地よい気持ちになる。
こうやって静かに二人で過ごすのが、俺たちの距離間としてはちょうどいいのだろう。
「青生くん」
読書を始めて30分くらい経った頃だろうか、高見沢さんが口を開く。
「どうかした?」
「私のことで、何か聞きたいこと、ない?」
「と、唐突だな……」
本当にどうしたんだ?
そう思いながらも、よく考えてみると、俺はあまり高見沢さんのことを知らない。
けっこう急な質問だったけど、これは彼女を知るいい機会かもしれない。
「遠慮なく聞かせてもらおうか」
「の、望むところよ」
「じゃあ、そうだな……」
とりあえず、定番のやつから聞いてみようか。
「兄妹とかいるの? ちなみに俺は妹がいる」
「残念ながら、私は一人っ子よ」
「なるほど、まあそんな気はしてた」
「ど、どいうこと!?」
高見沢さんの綺麗な顔が近づいて来る。
「教えない」
「教えなさいよ!」
「しょうがいないな~、まあ遠慮ないところとか?」
「こ、これでもけっこう謙虚に振る舞っているつもりなのだけれど」
まあ、それは間違ってはない。だけど。
「俺以外にはだろ?」
「えっ、えっ……っ!?」
「自覚なしか~」
「ちょ、ちょっと詳しく!」
「何て言うかな、俺に対してはけっこう素で接してくるよな」
「うっ……」
ようやく自覚が持てたのか、高見沢さんが言葉に詰まる。
「それじゃ、次~」
「ちょ、待っ――」
「――今って一人暮らし?」
俺と同じような境遇なら、当然自分のことを知る人がいない高校を選ばないといけない。
そうなら親元を離れていてもおかしくない。
「実質一人暮らしよ」
「へ~実質ってのは?」
「今の高校に進学する関係で家族そろってこっちに来たのだけれど、両親は二人とも仕事で忙しいからほとんど家にいないの」
「なるほどな~、ちなみに料理とか自分でするの?」
「それはお手伝いさんに」
「お、お~」
まあ、家事を全部やっておまけに学年4位の成績だなんて、さすがにそこまですごいということはなかったか。
「このブルジョアめ」
「それは言い過ぎよ」
「そう言いつつ、けっこう英才教育受けてんじゃないの?」
「まあ、それなりには」
「たとえば空手とか?」
「な、何でわかるのよ!?」
それは、まあ。
「最初に話したときの腹パン、けっこう痛かったし」
「――っ、ご、ごめんなさい」
あっ、また落ち込んじゃった。
いつもなら『それはあなたが悪い』って感じで俺をなじるんだけどな。
う、う~ん、段々いつも通りに戻って来たと思ったけど、どうやら復調はまだらしい。
それから、何度か同じようなやり取りをしてから、再び読書に没入する。
そして、西に傾き始めた日の光が眩しくなった辺りで、俺たちは本を閉じ立ち上がる。
「それじゃ、帰りますか」
「ええ」
まだ時間としては午後三時を少し過ぎた辺りだけど、ここからさらに電車に二時間近く揺られないといけない。そう考えるとこの辺が潮時だ。
俺は少し名残惜しい気持ちを引きずりながら、高見沢さんと一緒に駅に向って歩き出した。
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