第16話 やばい、惚れちゃいそう
夕暮れの、小さな国語科準備室の中。
身長が高いだけが取り柄の陰キャの生徒Aと、その生徒の推しの黒髪ロングの美少女が二人きり。
普通にこの状況だけ見れば、何ともまあ最高の一言に尽きるものだろう。
だけど、こんな状況になってしまった理由は、まったくもって不本意極まりないものというのが皮肉なところだ。
「それじゃ、話してもらおうかしら。高見沢さんがさっき言ってたことについて」
女王様のように足をパイプ椅子の上で組んで、俺の推しのりあ先輩が告げる。
高見沢さんがさっき言っていたことというのは、俺が罰ゲームとはいえ女子に告白されてしまったということで。
正直、めちゃくちゃ言いたくない。
「本当に言わないといけませんか?」
「ダメよ」
即答。
「で、ですよね……」
やはり逃れられないかと、がっくりと肩を落とす。
「そんなに言いたくないの?」
「えっ、それはまあ……あまりいい話でもないので」
「ふ~ん……」
何だろうこの間……もしかして、聞かないという選択肢を考えてくれてるとか?
「やっぱり話しなさい」
「え~」
期待した俺が馬鹿だった。
「のろけ話ならわざわざ聞かなくてもいいけど、そうじゃないなら先輩として見過ごせない」
「り、りあ先輩……」
そんなこと言われたら、言わないわけにはいかないじゃないか。
俺の推し、ちょっと卑怯だ。
「わかりました。話します」
「うん、話してみ」
それから、俺は昨日の放課後から今日の朝にいたるまでの一連の流れを簡単に説明した。そして。
「酷い話ね」
「で、ですよね……」
「その告白した子……河島さんの周りの人もそうだし、あなたもよ」
「ん、えっ?」
俺、何か悪いことした?
「わからないの?」
「はい……」
「告白に対するあなたの対応……10点よ」
「10点満点という意味で?」
「そんなわけないでしょ、100点満点で!」
「そ、そんなに強く言わなくても……」
何だろう、朝の女子たちからの冷たい言葉とは違った感じで心が
やっぱ、推しからの𠮟責は特別だ。
というか、これでも告白イベントはそれなりにこなしてきた俺が、ここまで低い評価を受けるなんて……普通に理由が気になる。
「ちなみに、残りの90点はどこに行ったんですか?」
「まず、告白を断った時点で20点の減点」
「そ、そんな~、さすがに理不尽過ぎですよ~」
「最後までちゃんと聞きなさいよ。20点減点って言っても、残りの80点はあなた次第で取れたんだから」
「それは確かに……」
だけど、どこが具体的にまずかったんだろうか。
そういえば、今朝高見沢さんから何か言われたな。確か――
「やっぱり、友達からってのがよくないとか?」
「それもあるけど、今回はまあ減点10点ってところね」
おい高見沢玲奈、的がはずれてるぞ。
そうなると、残りの60点はどこで失ったんだ?
「さっぱりわからん」
「はぁ、まあこれは女子特有のあれもあるから仕方ないか」
「そうそう、女子特有のあれですから……」
「調子に乗らない」
「はい」
とはいえ、女子特有の人間関係のあれこれに関しては、本当に俺ではどうすることもできない。
「真面目な話、普通に教えてもらってもいいですか? 俺としても今後に活かしたいので」
「良い心がけだわ」
「でしょ(ドヤ)」
「はいはい。それじゃ、まずはあなたの答え方の間違いから」
俺は一度姿勢をしっかりと直し、話に耳を傾ける。
ああ、言い忘れていたけど地面に正座とかではない。
ちゃんとパイプ椅子の上で正座だ。
「断り方として一番よかったのは、他に好きな人がいるって答えること。それも、クラス内での地位が高い子に対して」
「その心は?」
「単純に、周囲がこれじゃ仕方ないって思うからよ。今回、河島さんがハブられちゃった理由は何?」
「実際に告白したことと、俺に振られたこと?」
「そう。前者はどうすることもできなし、告白せざるを得なかった部分は、ある程度みんな理解してくれるはず。だから、その点はこの際いい。問題は後者よ」
やっぱ、俺みたいな陰キャの生徒Aに振られるような子じゃないよな……河島さんは。
「振り方は、河島さんをちゃんと立てるものじゃないといけなかった」
「えっ、勉強に集中したいじゃダメなんですか?」
恋愛に
「ダメね。だって、河島さんってたぶんこの辺じゃ有名な医者の娘で、将来は医者を目指してるんじゃなかったかしら」
「――」
マジか、そんなの知らなかった。
つまり俺はあれか?
医者目指してるくらい頭のいい子を、勉強の邪魔だからって振ったのか?
どう考えても、俺が彼女に勉強を教えてもらう立場じゃないか。
完全にこの辺の事情に詳しくない点が仇になった形だ。
「普通に俺の告白の断り方が悪かったです」
「自覚ができたようでよろしい」
「はい、それで俺はこれからどうすれば?」
「今のあなたにできるのは傍観ね」
「どれくらい?」
「最低でも三日」
「えっ~」
「我慢しなさい」
高見沢さんにも同じように言われたけど、やっぱり納得できない。
だけど、こういかにもリア充経験者の二人に言われてしまうと、受け入れざるを得ない。
「わかりました」
「はい、よろしい。それで、この際だから他には何かないの?」
「いえ、特にはなにも」
「そう。なら、また何かあったら遠慮なく相談しなさい。ちゃんと力になってあげるから」
「りあ先輩……」
頼もし過ぎて、やばい、惚れちゃいそう。
やっぱ俺の推しは最高だ!
「あっ、ひなた部活終わったって」
「なら、俺はもう帰ります」
「あら、一緒に三人で帰ってもいいわよ?」
「遠慮しときます」
あんな美少女二人と一緒に並んで歩いて帰るとか、陽キャリア充時代でも無理だわ。
それに、どっちかっていうと二人が一緒にいる尊い光景を、俺はひっそりと眺めていたい。
「それじゃ、俺はここで。お疲れさまでした」
「うん、お疲れ!」
こうして、俺は推しとの濃密な時間に終わりを告げた。
ちなみに、けっこう普通に美少女と楽しく会話をして、陰キャの生徒Aっぽくないと思ったそこのあなた、これはセーフです。
なんせ、外から俺とりあ先輩が二人で話している姿を見ることなど、無理なのだから……普通にりあ先輩には俺が陰キャの生徒Aにはもう見えていないかもしれない……いや、絶対に見えてない。
これはかなりまずいのでは?
でも、これは仕方ないことなんだ。
だって、推しと話していて楽しくないほうがおかしいのだから……うん、今度から気をつけよう……って、今さらか。
たぶん、そのうち俺が元陽キャリア充ってばれるな、これ。
まあ、推しにばれるのなら本望か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます