第15話 文芸部に入りました
結局、昼休みは俺たちが思った通り、河島さんは一人で昼食を取っていた。
俺としてはすぐにでも声をかけたかったけど、何とかそれを
そうして迎えた放課後。
「お疲れ様で~す」
俺は図書室の横にある国語科準備室に入った。
ああ、言い忘れていたけど俺、文芸部に入りました。
それで、今入った国語科準備室がその活動場所というわけ。
「お疲れ様。青生くん」
部屋に入ると、さっそく一人の先輩が声をかけてくれる。
文芸部の三年の先輩であり部長の
いかにも文学少女といった感じの眼鏡でお下げの、可愛いというより清楚で美人という言葉が似合う先輩だ。
ちなみに、どっかの誰かさんみたいにレンズがやたら光るとか、そんなことは一切ない。
「高見沢さんは?」
「ああ、あいつならすぐに――」
「――すみません、遅れました」
部屋の扉が急いで開けられ、高見沢さんが入ってくる。
「遅れてなんかないわよ。まだ開始時間まで10分も――」
「――いいえ、朝田先輩。この男より遅く来た時点で、それは遅れです」
「そ、そう……」
あ~あ、朝田先輩普通に引いてるぞ。
今のやり取りで何となく察したかもしれないけど、高見沢さんは朝田先輩のことが好きだ。
ああ、好きっていうのはリスペクトとか、そっちのほう。理由は知らない。
それで、部内ではやたらと俺に張り合おうとしてくるというわけだ。
その証拠に。
「あっ、その本」
「朝田先輩にこの前紹介してもらった本です。すごく面白かったです!」
「そう、それはよかった! 少しは純文学、好きになれた?」
「はい!」
前回の活動のとき、俺が純文学を読んでいてその手の話を朝田先輩としていたので、それが気に入らなかったらしく、色々と先輩に聞いたみたいだ。
「前まで純文学は読まないとか言ってたようには見えないな」
「ああん?」
「お~、今日もやってるね~」
――っ、この声は!
扉が開く音とともに聞こえた声に、俺はすぐに後ろを振り返る。
「りあ先輩。お疲れ様です!」
「うむ、苦しゅうない。青生少年」
「相変わらずだね、青生くん……それにりあも」
「朝田先輩、お疲れ様です」
苦笑を漏らした朝田先輩に、丁寧にお辞儀したのは二年の先輩の
腰の辺りまで伸びる癖のない綺麗な黒髪に、幼さを含んだ整った顔立ち。
身長は俺よりちょうど15センチくらい低く、身体はスポーツで鍛えられしっかりと引き締まっていて、肌は白くきめ細かい。
まさしく大和撫子と表現するにふさわしい美少女であり――俺の推しだ!
あっ、別に恋しているとかそういうのじゃないよ。
りあ先輩は高嶺の花――どんな陽キャリア充であっても届くことのない尊い存在。
だから推しってわけ。
「青生くん、それに真壁先輩も、あまり朝田先輩を困らせないでください」
「あ~ごめんね高見沢さん」
「おい、今のは聞き捨てならないぞ高見沢玲奈」
りあ先輩に対して何て態度だ!
「事実を言ったまでよ――ああ、そういえば」
「な、何だよ……」
やけに含みのある笑みを口元に浮かべる高見沢さん。
「ま、まさかお前――」
「――真壁先輩、この男、昨日告られたんですよ」
「ほほう」
あ~終わった。
「おい、お前なんてことを」
「さきに余計なことを言ってきたのはあなたでしょ」
「な、何だと――」
「――二人ともそのくらいに、もう時間よ」
「「――すみません」」
朝田先輩の冷たい一言に俺と高見沢さんは頭を下げる。
「おお、さっすが朝田先輩」
「りあ、あなたも」
「――すみません」
結局この場にいる三人全員がお叱りを受けて、ちょこんと長机に鞄を置きパイプ椅子に座る。
「それじゃ、今日の活動を始めましょ」
朝田先輩のその一言で、俺たちはそれぞれ持ってきておいた本を読み始める。
四人しかいないと思うかもしれないけど、これが普通だ。
部員は全員合わせると十人くらいいるけど、今いない人の大半は兼部している人が多く、全員が集まるのは週三回あるうち一回あるかないかくらいになる。
ちょんちょん。
本を読んでいると、隣に座っているりあ先輩が、上履きの先で俺のすねを軽く何度か蹴ってくる。
彼女のほうに視線だけを向けると、なんとまあ、可愛らしくいたずらっぽい笑みを浮かべていらっしゃるではないか。
これはあれだな、さっきの高見沢さんの発言について、後でゆっくりと聞かせてもらおうじゃないかってことだろう。
普通に嫌だけど、こうなった以上は仕方ないので、メガネをくいっと一回持ち上げて『わかりましたよ』と伝える。
くすっ。
あっ、今の笑顔めっちゃええ。
見てのとおり、りあ先輩はお淑やかな印象とは裏腹に、けっこう茶目っ気のある性格だ。
そのギャップがたまらなくいい……マジでの俺の推し最高!
それから一時間半ほど読書に時間を費やすと。
「それじゃ、今日の活動はここまでにしましょうか」
朝田先輩が読んでいた文庫本を閉じ、今日の活動の終了を告げる。
そして、りあ先輩のほうへ視線を向ける。
「りあは今日も残る感じ?」
「はい、ひなたと一緒に帰ります」
「なら、鍵はよろしくね」
「はい」
何度かやり取りをしてから、りあ先輩は朝田先輩から部屋の鍵を受け取る。
何と、りあ先輩はサッカー部のマネージャーである天然美少女ギャルのひなた先輩と幼馴染だとか。
それで、一緒に帰るためにサッカー部の練習が終わるまで、この部屋で待つことが多いのだ。
「それじゃ、私はこれで」
早々に帰る準備を済ませた朝田先輩が、立ち上がり部屋を出る。そして。
「あっ、待ってください!」
急いで高見沢さんがその後に続く。
俺のりあ先輩に対する態度もアレだけど、高見沢さんの朝田先輩に対する態度も俺に負けず劣らずだな。
そうして、あっという間に部屋には俺とりあ先輩だけが残る。
「さて、さっきの話の続き、しよっか」
う~ん、やっぱ今から帰っていいかな……てか帰りたい!
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